真銀竜の少女(ユニット:ゲルハルト&ゼルシオス)

「私の名前はエヴレナ! またの名を“真銀竜しんぎんりゅう”と呼ばれているわ。以後、お見知りおきを」


 少女は自らを、エヴレナと名乗る。

 ゲルハルトとパトリツィアはいぶかる目を向けるが、ゼルシオスとフレイア・ヒルデ母娘おやこは首をコクコクとさせて素直に信じた。


「“仲間”か。それは私たちのことかな? 私と同格か、あるいは私すらも上回る竜のお嬢さん」


 代表して尋ねたのは、フレイアである。

 空獣ルフトティーアの中でも最高位に位置する竜族、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェであり、よわい1万を超えるこの場での最高齢たる彼女は、目の前の少女の言葉をごととは見なしていなかった。


「そうよ。ただ……これは私の好奇心」

「好奇心ねぇ。俺と似た感じがするぜ」


 ゼルシオスは、エヴレナの性格に自身と似たものを感じる。「自由」を愛し「自由」を求める彼は、エヴレナの発した「好奇心」という言葉にシンパシーを覚えたのであった。

 と、ゼルシオスが揺さぶりをかける。


「もうちょっと、理由がありそうだなぁ? 嬢ちゃん」

「そうね」


 あっさりと見抜かれたエヴレナは、話の続きを始める。


「この世界に来て頻繁ひんぱんに、金色の光る粒子を見たの。それをたどるように来たら……貴方たちと出会った、ってこと」

「金色の光る粒子……俺も見たな。ゲルハルト、アンタはどうだ?」

おれもだ。何か奇妙なものを感じる」


 この場にいる者たちの何人かが、黄金きんの粒子を見たと話す。特にゲルハルトとゼルシオスは、確信を持って「見た」と言っていた。


 しかし、エヴレナの言葉は終わらない。


「それと、声が聞こえたの」

「声ー?」


 パトリツィアが尋ねると、エヴレナは「うん」と頷いてから話す。


「『汝、私が導きし者たちへの助力をなしてほしい』って」


 それを聞いてハッとしたのが、ゲルハルトとパトリツィアだ。


「……何か、神に導かれているような気配がするな。Asrielアスリール……おれ達と縁深き神ではなく、別の神に」

「それ、ボクも思った。Asrielアスリールのような柔らかさはあるけど、気配が違う気がするんだもん。とゆーか、Asrielアスリールがこんな絡み方すると思えないし、ねー」


 日常的に神と絡みがある二人は、それゆえに一度聞いただけで見抜いたのである。


「それにしても、助力ねぇ……。俺にはさっぱり見当が付かねぇぜ。フレイア、ヒルデ、心当たりあるか?」

「いや、私にも無いな」

「私もです、ご主人様」


 同じ竜であるフレイアとヒルデも、何を以て助力とするかの見当を付けかねていた。

 と、エヴレナが何か遠くを見つめる。


「ところで、あれは貴方たちの仲間かしら?」

「仲間ぁ? ……って、ありゃあ仲間も仲間じゃねぇか!」


 言われてゼルシオスが見つめたものは、白をもとに赤と金で飾られた航空艦――戦艦ドミニア。全長1,268mの威容は、時を夕刻に定められた摩天楼において異彩を放っていた。


「ゼルシオス……いや、ゼル。知ってるのか?」

「ったりめーだ、俺らが乗ってるふねだぜアレ。しっかしよぉ、よくもまぁここに来たもんだな」


 言いながらゼルシオスが、フレイアとヒルデを見つめる。


「お前に死なれてはかなわんからな」

「アドレーア姫が探していましたからね。教えちゃいました」

「案の定かよ。まぁ、いいや。ちょうど友達ダチに休める拠点をあげたかったんだ、いい機会だぜ。ゲルハルト、パトリツィア、来るか?」


 話を振られたゲルハルトが答える。


おれは応じよう」

「ボクもー。あとー、エヴレナちゃんも来るー?」

「ええ。そろそろ辺りをぶらぶらするのも飽きたから、ちょっと休ませてほしいわね」


 しれっとパトリツィアが振ったエヴレナも、同行するようだ。


「決まりだ。ヒルデ、俺を乗せな。フレイアは嬢ちゃんを」

「はぁい」

「承知。おぶさるがいい」


 ヒルデとフレイアが、ゼルシオスとエヴレナをおんぶの要領で背負ってから竜の姿に戻る。

 彼女たち母娘おやこにとって人間の姿は“擬態ぎたい”である仮のものでしかなく、むしろ本来の姿である竜の形態がしっくり来ていた。もっとも、竜の姿も人間の姿も、維持し続けるのに何の制約も無いが。


「ならばおれたちも同じようにしよう。パトリツィア、触れろ」

「はぁ~い♪」


 ゲルハルトとパトリツィアもまた、アズリオンを召喚、搭乗する。


「準備は出来た。ゼル、案内は頼む」

「あいよ。そんじゃ――」

「あ、ちょっとだけ待って」

「何だよ?」


 ふと、エヴレナがゼルシオスたちを制止する。


「おまじない、かけてあげる。貴方たちなら、あの“災厄”にも対抗できそうだから」


 そう言った次の瞬間、エヴレナの周囲に銀の光が巻き起こる。

 それはゲルハルトにパトリツィア、そしてゼルシオスとフレイア、ヒルデ母娘おやこを包み込んだ。


「おまじない、ねぇ。特になんか変わった感じはしねぇけど」

「それはいずれ分かるわ。さ、行きましょっか」

「だな」




 かくしてゲルハルトとパトリツィア、ゼルシオスとフレイア、ヒルデ、そしてエヴレナの6名は、戦艦ドミニアへ向かうこととなったのであった。


---


★解説

 そういうわけで、エヴレナ様を責任を持ってお預かりします。

 なお、本エピソードにて、ゲルハルト・パトリツィア・ゼルシオス・フレイア・ヒルデの5名に竜特効が付与されました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る