“死神”たるもの(神錘の代行者 vs『見習い死神』ミミミ)

 ゲルハルトとゼルシオスが、黒壁のオルクスを打倒せしめたのと時を同じくして。


 神錘しんすいの代行者は、次なる使命を与えられていた。


「我と存在を同じくする者あり、されどの者は未だ心得こころえを知らぬなり。なれば、導くのは先をわれがなさねばならぬ。道理なり、ゆえに我は今ここにあり」


 どのような使命かを、代行者はハッキリと諒解りょうかいしている。

 そんな彼が足を運んだのは、エリア3-1:エルフの聖域であった。謎の機体が、彼を回収したのちに改めて送り届けたのである。


「死を司るゆえ、我は歓迎されぬか。とはいえ、怯えといえど手を出されぬのは、無用の争いが無きゆえに良きことなり」


 代行者がまとう、隠しきれない死の気配は、よそ者を排除しにかかる閉鎖的なエルフ達ですら攻撃をためらうほどであった。下手に攻撃すれば返り討ちにされる、代行者はそんな雰囲気を示しているのである。

 もっとも代行者としては、死すべき運命さだめを持たぬ者に対して危害を加えることは望まないため、結局は求める通りであった。


「さて、そろそろか。彼の者の気配は、ここなるかな」


 本来はエルフが住まう、大木の幹をくり抜いた空き家。

 その一つに、代行者は足を踏み入れた。


「頼もう」

「みー……だ、誰?」


 少しして、白銀の長髪に華奢な体格をした少女が現れる。とはいえ、それは見た目上の話だが。


が名は、神錘の代行者なり。この地になんじがいると示され、こうして参った」

「みー。私の名前は、死神ミミミ……。あなたは、人間さんかな?」


 ミミミと名乗った少女が、代行者に問うた。


「是であり、非でもある。我は人の身にして、人の身にあらず。汝が名乗りし“死神”、それと同質の存在なり」

「そっかぁ……。それで、私を殺しに来たの?」


 首をコテンとかしげて、ミミミが再び尋ねる。

 代行者はすぐには答えず、透き通った振り子ペンデュラム――神錘を取り出した。


「汝が死すべきかは、既に我に示されたり。しかし汝に、その答えを示すべきであろう。ゆえに我は、問おう。我が目の前にいる者は、死すべきかを」


 反時計回りに回る神錘。

 それはやがて、白い光をていした。


「否、である。汝は今、死すべきに非ず。ゆえに、我は汝をおびやかさず、しかし汝を共に連れて行く」

「みー……何のために?」

「汝を導くためである」


 導くと聞いて、ミミミの表情が変わる。


「みー……私を導く、かぁ。あなたにその資格はあるのかな?」

「我は汝が試しに応じる。求めることをするがいい」

「だったら」


 ミミミがショルダーバッグから、カッターナイフを取り出す。何の変哲もないそれを、ミミミは自分自身の指を切り裂くために用いた。


「舐めて。私の血」

「望むままに」


 代行者はミミミの血を、ぺろりと舌で舐め取る。

 その、次の瞬間。


「……むぅ」


 代行者の全身を、ミミミの血に込められた「死」の概念がむしばみにかかる。神性を持つとはいえ肉体は人間のそれである代行者は、猛毒たる「死」の概念を受けて無事では済まなかった。


「みー……あれ? 変」


 しかし、ミミミは代行者の様子に違和感を覚える。


「何で、死なないの? 間違いなく、私の血を舐めたはずなのに」


 そう。

 触れれば一瞬で息が絶える血を摂取したはずの代行者が、のだ。

 不気味な黒い光の粒子を、漂わせながら。


「汝が死神であることは嘘偽り無し。されど格は、我に劣れり。そしてわれが持つSGエネルギー……簡易的に称すならば“生命力”は、汝が『死』の概念を中和し、無力と至らしめたなり」


 代行者は神性を宿し、またその行いゆえに「死神」と見なされてもおかしくはない。その格は、見習いであるミミミと比較すれば圧倒的なまでに高かった。

 そして代行者が保有するSGエネルギーは、たとえ代行者が肉体の一片も残さず消し飛んだとしてもその身を再生しうる力である。

 これら2つの原因があったがために、ミミミの血は代行者を殺すに至らなかったのであった。


「みー……私、連れていかれる」

「怖がらずとも良い。汝を脅かすことは考えておらず、ただ正しく死すべき者に死を与えることを教示する」

「みー……私の先生に、なるの?」

しかり。汝が、正しく力を振るえるように」

「分かった。ついていく」




 ミミミはショルダーバッグをしっかりと身に着けると、代行者についていく意思を固めたのであった。


---


★感想

 有原陣営最初の、特殊勝利の対象者。特殊勝利の相手となると、強さ自体よりも性格や味方ユニットとの関連性をどこまで持っているかの問題になる。


 今回のミミミは「死神」であったがために、有原が一目見ただけで「これは代行者と絡ませられるな!」と確信したがゆえのアプローチ。この後は、代行者が「死すべき者」と定めた相手に、死神としての練習のために死を与えることとなるだろう。たぶん百の魂は割とすぐに集まると思います。


 代行者がミミミの血を摂取してなめて死ななかったのは、本編でも書いた通りだが格と相性の問題。

 死神ではあるが見習いのミミミと、人間ではあるが数え切れないほどの死を与えてしかも神性持ちの代行者では、代行者が格上となる判断を下した。

 あとはSGエネルギーの特性の問題。ぶっちゃけこれがあったから「ミミミの血を中和できるんじゃねぇか」と思った結果がこれである。本編中では簡略的に「生命力(生命エネルギー)」としたが、特性上「死」と相反する概念「生」を含むため、相殺して無力化できるとの確信をもって今回の結果とした。


 正直、ミミミを倒すだけであれば、桜付きを含めて全有原陣営ユニットのどれでも可能。しかも単独で(サポートは除く。あくまで戦場たるリア様の世界にいるメンバーに限るため)。

 特にゼルシオス君であれば早々に「心臓が弱点である」と看破され、心臓への一点集中攻撃を受けて死んでいただろう。しかも体液が届きそうにない遠距離から。あれ、よくよく考えてみると、ゼルシオス君も十分にチート級じゃね? 生身の火力に不安があるけど。


 とはいえそれではもったいないし、そもそも有原の直感というか一目惚れというか、一目見て思った「彼女は生かそう!」という方向性に反するので全力で封印した。

 結果、「ユニットが死なず、かつミミミが生き残るには誰が適任か」という条件を満たすことも含めてなお代行者が適任であったと判断したため、こうして今回味方化する運びとなった。食料のカエルはそこら辺から適当に取ってくると思います。


 彼女は有原(作中では桜付き)、そして代行者に、死神としての成長を求められている。

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