集結する乙女たち(ユニット:ゲルハルト&ゼルシオス)

「さて、この後どうするよ?」


 ゼルシオスが漏らした言葉に、ゲルハルトが答える。


「どうするも何も……既にこの場にいる必要は無いな。ちょっと待ってろ」


 ゼルシオスを制止したゲルハルトは、Asrielアスリールに話す。


Asrielアスリール、セントラルに戻るか?」

『いえ、おそらくその必要はないでしょう。空を飛ぶ船が、向かってきています。それと……』


 はたから見れば独り言をつぶやいているように見えるゲルハルトだが、ゼルシオスはそのこと自体には横やりを入れない。

 だが、目線をゲルハルトの後ろに見せると。


「おっと、ゲルハルト。お取込み中悪いが……猫だ」

「猫だと?」


 ゲルハルトの後ろから、黒猫が猛ダッシュで向かってきていた。ゲルハルトの足元に来ると、そのまま一気にゲルハルトの体をよじ登り、顔面にへばりつく。


「もががっ!」


 そして、黒猫は器用に、爪がゲルハルトに触れないようにゲルハルトの頭を猛連打しだした。

 どことなくかわいらしく見えるが、ゲルハルトにとってはなかなかの理不尽である。


 ひとしきりゲルハルトの頭を叩いた黒猫は、ゲルハルトから離れると空中でクルリと一回転し……次の瞬間、美女となった。


「ゲ~ル~ハ~ル~ト~! このこの~っ、ボクを置いて行くなんて!」

「ちょ、やめろパトリツィア、お前の膂力で殴られるとシャレにならん!」


 黒髪黒目の爆乳をした、パトリツィアと呼ばれる美女がゲルハルトをポカポカと叩き出す。しかし力があるようには見えない見た目に反して、パトリツィアはその気になれば人ひとりを片手で持ち上げるほどの力を秘めていたのだ。


 見かねたゼルシオスが止めに入る。


「まあまあ、美人なお姉さん。ここは俺に免じて、止めてくれや」

「え? 誰、キミ?」

「あぁ、名乗ってなかったな。俺はゼルシオス・アルヴァリア。ついさっき、ゲルハルトと共闘したとこだ」


 ゼルシオスの自己紹介を見て、パトリツィアが表情を崩した。


「そっかー、ゲルハルトとねー。見たところイイ感じだし、これからもボクともどもよろしく頼むよー」

「ああ。これからも、な」

「あとー、ボクの胸やカラダはいくらでも見ていいけどー、見るだけにしときなよー?」

「ったりめーだ。友達ダチの女に手ぇ出せっかよ。そこまで女に飢えてねぇしな」


 ゼルシオスにとって、パトリツィアがゲルハルトの伴侶たる女性であることを察知するなど朝飯前である。

 そして今のパトリツィアは知るよしも無いが、ゼルシオスにもパトリツィア並みの爆乳を持った女性アドレーア姫がそばに寄り添っているのだ。イケメンフェイスを持つ男の特権である。


「っと……そろそろ来るな。おーおー、そういえばそんなデカさだったわ」


 と、ゼルシオスが直感でもってある気配を察知する。そして、その方向に首を向けた、次の瞬間――


「ご~しゅ~じ~ん~さ~ま~!」


 見た目に似合わぬ、可愛らしい声が響く。

 全高100mに全長250m、翼を広げた総幅は375mを誇る真紅の巨竜型空獣ルフトティーア赫竜エクスフランメ・ドラッヒェが2体、ゼルシオスたちの元にやって来たのだ。


「なんだ、あの生物は! それも、2体だと……」

「落ち着け、ゲルハルト。あれは俺の彼女とその母親だ」

「あれが(か)!?」


 ゲルハルトとパトリツィアが、揃って叫ぶ。

 確かに真紅の巨竜を見て、彼女とは思えないだろう。


 だがその疑問は、間もなく解消される。

 2体の赫竜エクスフランメ・ドラッヒェは、瞬く間にその姿を半人半竜の美女へと変えた。一人は赤い髪に赤い瞳、そして着用しているへそ出しミニスカ赤メイド服が特徴的であり、もう一人はやはり赤い髪に赤い瞳、そしてどことなく民族衣装に近い服が特徴的であった。


「ご主人様~、終わらせましたよ札束集め!」

「ライラの手も借りたからな。アドレーア姫のメイドである彼女ならば、造作も無い」

「そういうことか。それにしても、ヒルデもフレイアもどうしてここに来たんだ?」


 ゼルシオスにとっては、こっそりドミニアから抜け出して遊びに出たと思っている。

 しかし直後のヒルデの言葉は、ゼルシオスの直感をもってしても読むことはできなかった。


「えへへぇ、ご主人様のにおいを追いかけてたら会えましたぁ」

「ワンコかよ……」


 犬に等しい嗅覚である。しかも、本当に匂いであればかき消される高空からだ。

 正体としては、ゼルシオスが持っている重素臓ゲー・オーガンで調節された重素グラヴィタ――重力の痕跡を追ったのである。この異世界において、重素臓ゲー・オーガンを持つ生物はある程度限られていたゆえの芸当だ。ただしヒルデの性格上、この言葉を否定しきれるものではないが。


「正確には、先ほどの光の柱を追って向かったというものだ。そこにお前がいそうだったからな。少なくとも私にとっては、だが」


 フレイアの場合は、これまでにゼルシオスと接した経験と勘をもって向かったという、もう少し実感しやすい理由であった。

 極大の摩天楼すら飲み込む光の柱を見ては、確かに「何かがある」と判断しても自然である。


「とまあ、これが俺の彼女のヒルデだ、ゲルハルト」

「ヒルデです。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げるヒルデに、ゲルハルトも「よろしく頼む」と答えた。


「おい」


 と、突如として、フレイアが呼ばわる。


「私たちを見ている者よ、姿を現せ。既に、そこにいることは分かっているぞ」


 フレイアが視線を向けた先には――


「バレちゃったか。初めて見る仲間の姿が見えたから、ちょっと驚かせようとおもったんだけどな」




 ポニーテールをした銀髪の少女が、姿を現したのであった。


---


★解説

 真銀竜しんぎんりゅうエヴレナ様、合流です。

 どうしてここに来たのかの詳しい話は、続きにて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る