影の王の暴威2(ゲルハルト&ゼルシオス vs 黒壁のオルクス)
「ゼルシオス……」
ゼルシオス・アルヴァリアと名乗った男こと青年に対し、ゲルハルトが短く呟く。
「ああ、ゼルシオスだ。“ゼル”でもいいぜ。ところで、あんちゃんの名前は?」
「ゲルハルト……ゲルハルト・ゴットゼーゲンだ」
「あいよ、ゲルハルト」
ゲルハルトは、
「それよりも、そろそろ起きるぜ変なヤツ。ああ、あいつの名前知ってっか?」
「奴は自身を『黒壁のオルクス』と名乗っていたな」
「黒壁の、ねぇ。そんなご大層な二つ名まで付けちゃって」
話し込む程度には、ゲルハルトとゼルシオスに余裕が生まれてきていた。
「貴様ら……私を無視して歓談とは、良い度胸だ」
と、声が怒りに満ちたオルクスが、ゆらりと立ち上がる。
両腕を奪われ首をはねられたはずの体は、五体満足の姿に変わっていた。
「おーすげぇすげぇ、殺したと思ったのに死んでねぇや。なぁテメェ、それどんなカラクリよ?」
「人間ごときが……調子に乗る、な!?」
叫んだオルクスの胴体が、左肩から右脇腹にかけて
「ねー、俺、質問してんだけどー?」
斬ったのはゼルシオスである。
先ほどから放っていた衝撃波を放つ技――「
ゼルシオスにとっては知るよしは無いが、オルクスの再生能力は特殊能力たる“デスペラードグリード”に由来するものである。
黒壁の摩天楼を支配し怨嗟の念を
「貴様は私を愚弄した。奴隷にしてなおいたぶり抜いてやる」
「おー
それゆえに、殺しきるにはオルクスにとって猛毒たる神性を付与した攻撃で、致命傷を与えるしか手段が無い。
ゼルシオスはそれを、未来予知とも高次予測ともいえる直感でもって、既に知っていたのである。
「せいっ」
と、ゼルシオスがさらに、無影によってオルクスを切断しにかかる。
「もう通じるものか、下郎!」
オルクスは影に潜って回避する――が、ゼルシオスに焦る様子はまるで無かった。
オルクスが影にいるうちに、ゼルシオスがゲルハルトに耳打ちする。
「あそこな。3秒後に出てくるから、攻撃しろ」
「ああ」
ゲルハルトはゼルシオスに指示された場所へ、大剣の切っ先を向ける。
「今だ」
「既に」
そして3秒後のタイミングに合わせてビーム砲を撃つと、オルクスが影から出てきた瞬間にビーム砲が命中した。
「何、だと……」
驚愕の表情を浮かべたオルクスが、ゲルハルトとゼルシオスを見てうめく。
「バレバレなんだよ、攻撃も回避も、どっから向かってくるかやどこにいるかも全部。俺にコソコソすんのは通用しねぇ……ぞ!」
背面から飛んでくる影の腕を、ゼルシオスは背中に目が付いているかのごとく対応し、切り落とす。不意打ちですら、まるで通用していなかった。
「通用しねぇって言ってんだろ。とっととゲルハルトに殺されてくたばれ」
「おのれ……ならば!」
オルクスは攻撃を避けるべく、素早く影という影を渡って、残存した摩天楼の屋上に立つ。
「貴様たちは、ここで死ね!」
その言葉と同時に、オルクスの頭上に黒い球体が生成される。
黒壁の摩天楼全ての影が、徐々に確実に吸い寄せられ、球体という集合体にならんとしていた。オルクスの究極の必殺技、“トワイライト・マリス・スパーク”が発動したのである。
「まずいぞ、止めねば……!」
ゲルハルトが、急いで止めにかかる。
だがゼルシオスは、ゲルハルトの左肩に右手を乗せて止めた。
「まーまー、そう急ぐなよ」
「何を悠長な……!」
「よりにもよってあそこに昇ったか。まぁ知ってたけど。もうちょっと待ってな、
その言葉と同時に、ゼルシオスはじっくりとオルクス――正確には、オルクスの頭上を見ていた。
ゲルハルトもまた、ゼルシオスの言う通りにする。
そんな二人の様子を諦めと取ったのか、オルクスが高笑いした。
「ヒャハハハハハ、どうした、手も足も出ないのか!? 止めたければここまで登ってみろ! もっとも、登るまでの間に貴様たちは死ぬがな!」
そんなオルクスを見て――ゼルシオスは、馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「へっ、俺が
「上――ぐわっ!?!?」
ゼルシオスの言葉通りにオルクスが上を見た、その瞬間。
なんと、落下してきたギガンテアがオルクスの体をビルごと貫いた。
「そろそろガス欠しそうだったし、せっかくだからロケット代わりに使うことにしたんだ。いいサプライズだろ?」
ゼルシオスが
それを見たゼルシオスが、自身の直感を頼りに、ギガンテアを不意打ちのロケット弾として使い捨てたのである。13
「さてゲルハルト、いい加減にトドメだ。あの黒い
「ああ。
「そういうこった」
ゼルシオスが、再びゲルハルトの肩に手を乗せる。しかし今度は、止めるためではない。
そんなゼルシオスの様子を見たゲルハルトは、一瞬笑みを浮かべてから、叫んだ。
「来いッ! アズリオンッ!」
その言葉と同時に、シュヴァルツェスリッター・アズリオンが召喚される。同時に、ゲルハルトとゼルシオスがアズリオン内部に転移し、操縦準備が整った。
「今の奴は動けねぇ。やっちまえ、ゲルハルト!」
「ああ! 全力で行く!」
ゲルハルトは、アズリオンに大剣を一振りだけ構えさせる。
そして大上段に掲げると、大剣を真上に向けたままビーム砲を放ち――目の前の摩天楼にいるオルクスを見据える。
「滅びよ、悪魔」
ゲルハルトは短く告げたのち、そのまま大剣を振り下ろした。
アズリオンの全長をはるかに上回る長さで放たれたビームの
「ば、馬鹿な……この、私がぁああああああああああああああああッ!!」
トワイライト・マリス・スパークの制約で、影を渡っての回避もできない――よしんば一度は避けたとて、すぐに次の巨剣が襲い来る運命だ――オルクスは、そのまま神威を宿した光の
「ふぅ。終わったな」
「ああ、もう奴はいねぇな。どうやら影どもも散り散りになり始めたし――降ろしてくれや」
「承知」
もはや摩天楼をこれ以上壊す必要も無くなったゲルハルトと、戦いの終了を直感にて察知したゼルシオスは、アズリオンから降りて戦闘態勢を解除したのであった。
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★感想
強い。看板に偽りなし。「序盤は戦うことを避けるべき強敵」というのは間違いなかった。
ゲルハルトとゼルシオス君のどちらかが欠けていたら勝てなかったレベルで強い。
ゼルシオス君がおらずゲルハルト一人では、あのまま自身の影を広範囲攻撃で
逆に、ゲルハルトがおらずゼルシオス君一人では、そもそも神性を持たないので倒しきれない。ただし「倒せない」以外は、ゼルシオス君にとってオルクス君は相性の良い敵。最終的に「倒せないので逃げる」となっても、ゼルシオス君の直感をもってすれば割と容易に逃げ切れるし、一時的であれば攻撃が通用するので「おちょくりにおちょくってから逃げる」というオルクス君激おこ待ったなしな戦法も可能。
だからこそ、有原は南木様に「主人公勢複数(2名)vs敵1名は可能ですか?」と尋ねたのである。これ(逆に、“主人公勢1名vs敵複数”というパターンもある。もちろん両パターンともOKの返答を頂いた)が出来なかったらそもそも相手に選んでいないくらいには強敵。
ボスクラスの悪魔としては、すでに書いた通り十分な強さを誇っていた。
しかしゼルシオス君にはさんざんになぶられていた。まぁ「なぶり殺しにしてくる悪魔を逆になぶる」というのはやってみたかったので大満足。
ちなみに、神錘の代行者と戦った場合はどうなっていたか……というイフ。
彼の場合、「迫る影を可能な限り徹底的に無視してひたすら執拗にオルクス君本体を狙い撃ちにしてくる」という戦法を取ってくる。まあ影が、同時に11体以上(10体までなら本体たる代行者と互角なのでギリギリ相殺できる)SGエネルギーによる即死攻撃を使ってきたら、SGエネルギーで影を麻痺させるという戦術をとるだろうけど(自分にダメージは来るが、あくまで麻痺、しかも与えたダメージの10分の1なので致命傷たりえない)。代行者の力量となると、「影は攻撃せずいなすに
え、桜付き? お察しください。あれが出張ったら相性とかいろいろなものを超越して瞬殺オチ待ったなしですから。だから桜付きの積極戦闘は封じてるんです。描写的につまんないですし。
最終的に、オルクス君はゲルハルトとゼルシオス君を合流させる素敵な触媒となってくれた。前のエピソードで「ゲルハルト&」という奇妙なタイトルなのはゼルシオス君の存在を示唆するもの。まぁ分かりやすい伏線は示していたのだが。
ちなみに作中では、桜付きがそうなるように因果を調整していたというものである。まったくもって桜付きは、舞台装置にふさわしい働きぶりをしてくれている。
最後に余談だが、有原陣営は基本的に「リアにとって脅威たりえる存在を優先して狙う」という戦略を組み立てている。え、ノックス? あれは私のこの戦略を、存在するだけで邪魔してくる対有原陣営の超が付く脅威だから……。
ロールプレイであり有原自身への緩い縛りでもあるのだが、行動原理で見るならば一貫しているように見えれば幸いである。
実に素敵な、ボスであった。
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