暗澹たる大都市(ユニット:ゲルハルト)

「濁った気配が漂っているな……」


 アズリオンを飛ばし、エリア7「メガロポリス」に到達したゲルハルト。

 彼はエリア全体を包み込むどんよりとした雰囲気に、異様さを感じていた。


「悪意は中心より湧き出でる、か」

『その通りです。貴方より共有された女神リアの情報では、悪意が湧き出る地は「エリア7-4:黒壁こくへき摩天楼まてんろう」と称されています。エリア7……今いる地「メガロポリス」の中心部ですね』

「一刻も早く、悪意の発生源を仕留めねばな。悪意は瘴気しょうきとなって人々をむしばむ」

『その通りです。それと、一つ補足が』

「何だ?」


 Asrielアスリールの言葉に、ゲルハルトは耳を傾ける。


『黒壁の摩天楼には、時間異常があります。常に夕陽が出ているようです』

「何だそれは。おれには分からんな」

『見て頂ければ――おっと、8時の方向に敵影5です。距離8,000、回避準備を』

「承知」


 ゲルハルトはアズリオンを停止・左回転させ、遠くから訪れる敵――戦闘機ギガンテアに、正対する体制を取る。


 次の瞬間、光弾が8発飛来した。


「避けるまでもないな。そのまま進む」


 襲い来る光弾は、しかしアズリオンを捉えることはない。狙いはでたらめ、炸裂しても全弾がかすりもしなかったのだ。

 光弾が炸裂したのを目視したゲルハルトは、アズリオンを加速させる。ギガンテアもまた、5機のうち4機が加速した。


『相対速度は十分です。一瞬で距離が詰まります、集中を』

「ああ」


 既に結晶を展開させ、大剣としての形となった得物を両手にするアズリオン。


「……参る!」


 すれ違う一瞬。

 ギガンテア全機が機関砲を連射するが、アズリオンの装甲には通じない。


 そしてアズリオンは――音速をはるかに上回る相対速度で、正確に4機のギガンテアを両断し、最後のギガンテアの背後に回り込んだ。


『……ヒッ!?』


 と、ギガンテアの内部から声が響く。


「やはり有人機だったか」


 ゲルハルトはギガンテアの背面にアズリオンを付けたまま、短く警告する。


「死にたくなければ、今すぐ機体から離れろ。従わなければ叩き切る」

『わ、分かった! まだ死にたくねえんだ、言う通りにする!』


 ギガンテアがゆっくりと、エリア7-1:マッドシティの外端部に着陸する。もちろんアズリオンは付いたままだ、下手な真似をすれば即座に仕留められる位置取りである。

 着陸後に動きを止めたギガンテアの正面装甲がくちばし状に開くと、パイロットの男が出てきた。


「東に行けば安全な都市がある。保護を求めろ」

「ああ……分かった」


 男が一目散に東へ向けて走っていくのを見届けたゲルハルトは、アズリオンを再度反転させて今度こそ黒壁の摩天楼へと向かっていったのであった。


     ***


 パイロットの男が走り去ってから、数分後。


「おっ、面白そうなオモチャがあんじゃねぇか!」


 空からふわふわとギガンテアに向けて降りてきた、一人の男がいた。


「何だっけ、前世じゃあ“戦闘機”って呼ばれてたやつにそっくりだなぁ、オイ!」


 男はギガンテアの上に着地すると、すぐさまコクピットに飛び乗る。


「あー、動かし方はシュタルヴィント改やヴェルリート・グレーセアに似てんな。いじんのはちょっと簡単だけど、どんな感じか」


 耐Gスーツも付けていない男は、初めて乗る機体にも関わらず慣れた手つきでギガンテアを操る。

 くちばし状の装甲が閉じ、ギガンテアは男を新たな主と認めた。


「とりあえず……邪魔だから掃除すっか」


 そして男は、ギガンテアの機関砲と光弾ミサイルを正面に向けて斉射する。進路上のゾンビたちが、瞬く間にチリや飛沫しぶきとなった。


「そんじゃ……いっちょ、行くか!」




 滑走路たる道路を確保した男は、何の苦も感じさせずにギガンテアを再び空へと飛ばしたのであった。

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