目覚めと出撃(ユニット:ゼルシオス)

「……ふあぁ。寝てたのかよ、俺」


 ドミニアの廊下で、ゼルシオスがむくりと起き上がる。

 光の大渦に吸い込まれた瞬間から、肉体に宿る意識が消失していたのだ。


「しっかしまぁ、ありゃ夢じゃなかったぜ。なんなんだあのクソ女神アマ……つーか、ここもうヴェルセア王国じゃねーな。とりあえず言ってたことはホントっぽいが、さて……」


 怒りの感情が、まだ胸に残っているゼルシオス。


「どうなって……っか……」


 自身の部屋を開けると、山のような札束が積まれていた。


「ホントにやりやがった……」


 クソ女神アマ呼ばわりも忘れて、ゼルシオスは口をぽかんと開ける。

 ゼルシオスにとって印象は最悪だったリアだが、それでも頼んだ脅した通りに仕事をしていたのだ。


「あー、ヒルデ、いるか?」


 と、ゼルシオスは自身のメイドであるヒルデを呼ぶ。


「はい、ご主人様! ここにいます!」

「この札束の山。全部綺麗に金庫にしまっとけ。あと、アドレーアの部屋にも同じ山があっから、それもやっとけ」

「分かりました! ところでご主人様は?」

「目覚ましに、ちょっくら“散歩”してくるわ。あ、あと、全部一人でやろうとしなくていいぞ。ぶっちゃけ、量多すぎ」


 ゼルシオスは「加減ってーのを知らねーのか、あのクソ女神アマとぼやきながら、格納庫へ向かう。


「どこへ行く?」


 と、これまた竜のつのと翼、そして尻尾を生やした赤髪紅眼の美女とすれ違う。


「フレイアか。ただの散歩だよ、散歩」

「噓をつけ。格納庫へ向かうお前がただの散歩をするわけないだろう」

「知ってるくせによ。ま、心配なら勝手についてきな。そうそう、俺の部屋でヒルデが札束片付けてっから、手伝ってやんなよ」

「またお前は……まあそれはいい。後で追いかけるから待っていろ」


 ヒルデの話をすると、フレイアと呼ばれた半人半竜の美女はゼルシオスの部屋へとかけていった。

 それを見たゼルシオスは、人通りの少ない廊下で叫ぶ。


「さて、ちょっとばかり自由を味わうかね!」


     ***


 格納庫に到達したゼルシオスは、梯子を登ると手慣れた様子で人間の通るハッチを開き、通ってからまた閉める。

 屋外に出る常とう手段だ。


「今進んでんのは、西か。……お?」


 と、ゼルシオスの視界に黄金きんの粒子が見える。


「何だ、こりゃ?」


 粒子を掴もうとするゼルシオスだが、光ゆえに掴んでも手元で消えてしまった。

 だが、ゼルシオスの直感は、粒子が見えた事実を吉兆と捉える。


「点々として見えるな? 面白そうだ、追ってみっか!」


 そしてゼルシオスは、彼のいる世界の人間なら誰もが持つ特殊な臓器――重素臓ゲー・オーガン励起れいきさせる。

 着用した腕輪のリングで起動状態を確認出来るのだが、水色に光っていた。


「そらよ!」


 甲板の端にまで足を進めていたゼルシオスは、何のためらいもなくドミニアを蹴って飛び降りる。

 自殺志願者と思われるその行動は、しかし直後に意外な結果をもたらした。


 ゼルシオスの体が、

 勢いに欠ける落ち方は、高度こそ確実に下がっているが落下死するようなものでは到底ない。


 さらにゼルシオスは、適当に蹴ったわけではない。

 かなり念入りに鍛えた脚、そして彼の直感は、進みたいと望む方向に進めるように彼の軌道を調整していたのである。


「さて、何が待ってっかね!」


 かくしてゼルシオスは、方角にして西へと進んでいった。




 しくも同じ方向へ進む黒騎士がいるとは、直感をもってしても微塵も予想せず。

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