起章:異世界に降り立った英雄たち
セントラル到着(ユニット:ゲルハルト)
「騒々しい街だな。ベルグレイアと同じくらいか、あるいはそれ以上か」
首都セントラルに降り立ったゲルハルト。
しかし、賑やかな街が彼の心を揺すぶることはない。
「すべきことは決まっている。それをせねば、な」
ゲルハルトは、リアからハンター資格や両替の説明を受けている。
飛び込んだ光の渦はリアが管理する異世界の直行コースではなく、セントラルに到着するまでの待機所のような場所だったのだ。その場において、ある程度のレクチャーがなされたわけである。
とはいえ、彼は着の身着のままで来ている。
ハンター資格だけは絶対に取るようにリアから強く言われたため取ってあり、それに付随して支度金も支給されているが、彼は金銭事情においてはさして興味が無かった。
だが腹の虫が鳴ったのを、見過ごすわけにもいかなかった。あくまでも彼は、肉体的には人間である。
「……腹が減っては、な」
手近な場所で、朝食をとることに決めたのであった。
***
「ふむ、悪くないな」
王族からも歓待される身分であるゲルハルトは舌をそれなりに肥やしているが、そんな彼でも満足できる程度にセントラルの料理の質は高かった。
そんな舌鼓を打つ彼に、邪魔が入る。
「……これは
脳がチリッと焼けつくような感覚を覚えた彼は、眉をひそめつつコンタクトを取った主に告げる。
「無言で異世界に行ったのは許せ」
『構いません。私としても、貴方には神として成長してほしいと思っていましたから』
「それで、何か用があるんだろう?」
『はい。これまでどおり、貴方を後方で支援します。具体的には、何をすれば良いのかを指し示すことですね』
「いつも通り頼むぞ。
『はい。あと、パトリツィアが怒ってましたよ。貴方に関する話を聞いた途端、「大事な大事なボクを差し置いてどこ行ってんの!? もー怒った! あっという間に追いついて、驚かせてやる!」だそうです』
「うわぁ、やれやれだぜ……」
嘆息するゲルハルト。
彼の妻と言える存在のワガママぶりと溺愛ぶりには、頭を抱えているからだ。
「……ん?」
と、ゲルハルトの目に何かが一瞬映り込んだ。
『どうしましたか?』
「見間違い、か? 金色に光る何かが見えたのだが」
『いえ、見間違いではありません。私からも見えましたから』
「そうか……。何だったんだ?」
金色の何か――正体である粒子は、ゲルハルトはもとより
この粒子の正体がわからず困惑するゲルハルトであったが、ひとまずは今目の前にある朝食を食べ終えることを決めたのであった。
***
「行くか。
腹ごしらえを済ませたゲルハルトは、一度アズリオン・クラインを召喚して高度を稼ぐ。
彼が愛機であるアズリオンを召喚する際は、周囲に強風を発生させるからだ。これまでベルグリーズの首都であるベルグレイアにおいても構わず召喚させていたが、今回は場所の違いを考慮して少々配慮をした格好になる。
『十分な高度です。今であれば、周囲への被害は無いでしょう』
「承知した!」
「来いッ! アズリオンッ!」
次の瞬間、強風を伴って愛機、アズリオンが召喚される。同時にゲルハルト自身は機体の中へと入っており、すでにタンデムの操縦席の前方に座っていた。
「少し鍛えたが、パトリツィアのいない時に高高度での操縦はままならないな……!」
やや不安定な状態に陥るアズリオン。
だがゲルハルトは、何とかなだめすかして操縦を行う。
「ふう、少し安定してきた……。ひとまずは、彼女――リアの障害たりうる存在を倒しに向かうか」
『それであれば、特にこの世界に仇なす存在を狩るのが良いでしょう。特に、統制を取っている存在を』
斬首戦術――指揮系統の要となる存在を排除する方針を、
「そうするとしよう。小物を多数狩っても良いだろうが、
『助けるため、でしょう? 良い子に育ちましたね』
「それを言われると息子としては鼻が高いな」
『誇ってくださいな。ところで、支度が必要であればいつでもベルグリーズに戻しますよ、ゲルハルト』
「そうだな。戻る必要に迫られたら頼むか」
もっともリアを助ける方針であるため、問題が十分な解決をするまではゲルハルトを戻すとしても一時的なものだが。
「それで……どこに行ったものか?」
ゲルハルトがこの後の方針を決めるべく疑問を口にすると、
『西より、私たちとは相反する悪意を感じます』
「なら従うか」
短く肯定の反応を示したゲルハルトは、アズリオンを西へと飛ばしたのであった。
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