プロローグ:ゼルシオス・アルヴァリア(とその一行)

 また異なる世界にて。


「今日も空獣ルフトティーアはいねえな。この辺りの空は制圧下、か」


 左右の腰に刀をき、軍服をだらしなく着崩した青年が、頭を軽くかきながら呟く。


「それにしても、しばらく訓練ばっかでヒマだぜ。なんか都合よく、イベントでも起きないもんかね?」

「そんなこと言ったら本当に起きちゃいますよ、ご主人様」


 そんな青年――ゼルシオス・アルヴァリアをたしなめるのは、一人のメイドだ。

 ただし、竜のつのと翼、そして尻尾が生えた、半人半竜とも言える姿をしている。

 その上、彼女の着ている赤く染めた色合いの特注のメイド服は、へそ出しミニスカートなことに加えて元々とても大きな胸元を強調している。本来のメイドが持つ慎ましやかな雰囲気は、彼女からは漂っていなかった。


「そんなもんだよな、ヒルデ。ただ、ホントに起きる気がするぜ。俺がぼやく前からな……ん?」


 ゼルシオスが真っ先に、そしてヒルデと呼ばれた半竜のメイドが続けて、二人が乗船している軍艦から見える風景に異変を見つける。


「おい、何だあれ!」


 叫びながらも、ゼルシオスは左手首に巻き付けた腕輪状端末で一人の人物を呼び出す。


「アドレーア! 4時方向に――」


 彼の言葉は、次の瞬間訪れた振動で止められた。


「ぐっ……!?」


 軍艦“ドミニア”を襲う強烈な揺れを、ゼルシオスは廊下にある手すりをとっさに掴んでこらえようとする。


「ヒルデ! 掴まれ!」

「は、はい!」


 そのままヒルデの手を取り――しかし揺れは、激しさを増した。


「なんだこりゃ……やっぱり俺の直感通りかよ!」

「ご主人様の直感ってずっと当たりっぱなしですもんね!」

「余裕かましてる場合か! ぐっ、引きずり込まれ――ッ!?」




 ゼルシオスが最後に見たのは、高さだけでも400mメートルはあるドミニアを丸ごと呑み込まんとする巨大な光の渦――そのふちの一端であった。

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