第29話 恋に開き直る今上の陰で…
清涼殿に戻った今上は、対の御方と既に想いを通わせている貴公子がいることはショックでしたが、
「私と対の御方の関係は、既に皆の知るところだったのか。なんだそれなら話は早い。もう隠しておく必要がないのだからな。
そうとも、私は何をしても許される身なのだ」
とすっかり開き直ってしまったのでした。
一方、昼下がりの今上の訪問の一部始終を、息をひそめて見守っていた梅壺女御付きの女房達は、女主人の御前に参上して、口々に言い合いました。
「昼の間じゅう、ずうっと御方の局でお過ごしでした」
「やっぱり!よくも今まで知らなかったことよ」
女御の御乳母とも話し合い、今後のことも含めて女御の母君の今北の方に相談しました。
こんな事実を知らされて、今北の方は怒り心頭です。
「誰もが振り返るような美人だから、後宮で浮ついた噂が立ちはしないかと不安だったけど、まさか今上のお手が付くとは。才ある人だから、女御の母代わりとして、楽や手蹟の師匠として、頼みにもしていたのに。何不自由ない生活の恩を仇で返すとはまさにこの事」
按察使大納言の数人の妻のうち、一番愛されていたのはあの山里の娘の母親だったことを、今北の方は思い出しました。
「いつもあれの母親に嫉妬していた気がするわ。女御も、あの頃の私と同じ嫉妬心を抱いているのかしら。ああ、なんてお気の毒な」
継子のせいで、我が女御がみじめな気持ちで暮らしているかと思うと、かつての自分の苦労も思い合わせて、今北の方は山里の娘が憎くてなりません。
「内裏を下がらせて、山里へ追い返してしまおうかしら。いえいえそんなことをしても、今上と通じ合っていたとしたら、あの娘のゆかりの地を捜して、きっと連れ戻しなさるに違いないわ。
我が女御への今上のご寵愛も深く、たくさんの女房にかしずかれ、華やかに幸せに暮らしているものとばかり信じていたのに、これでは飼い犬に手を噛まれたようなものだわ、なんとかしなきゃ」
と女御の御乳母からの相談を受けてから、今北の方はこのことで頭がいっぱいです。
あれこれ考え抜いた結果、ある決断をしました。
「そうだわ、私の乳母子の民部少輔(みんぶのしょう)に預けよう。信頼できる男だから大丈夫」
この民部少輔という者は今北の方の乳母子で、日ごろから親しく付き合い、今北の方の所有する領地などの管理も任されている者です。
今北の方は民部少輔とその妻を呼び出し、事情を説明しました。
「…ということなのです。ですからしばらくの間、その娘を預かってはもらえませんか。出入りなどさせないよう、きっちりと見張って下さい。気合を入れて監視してくださいね。うまくゆけば、お礼ははずみますよ」
と言い、特に民部少輔の妻に対しては、
「同じ女なら、この私の気持ちはわかるでしょう?夫が他の女に目を奪われる悔しさ。
女御がそんな嫉妬の心に胸を痛めているかと思うと、腹が立ってどうしようもない、そんな女親の気持ちをわかってくれますわね」
涙ながらに訴えるので、民部少輔夫妻は断ることもできないのでした。
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