第38話
俺たちは「反撃開始だ」と、言わんばかりに意気込んでコートに立つ。ゲーム開始時のジャンプボールはこちらが制していたので、後半戦は相手サイドからのボールでスタートだ。
Dクラスチームのリーダーらしき生徒が、一同を見回しておもむろにドリブルを始めた。
相手のポジショニングは先ほどと同様、丹生を徹底的にマークしてこちらにチャンスを与えず、このまま試合終了まで逃げ切るという算段だろう。
俺がそんなことを考えていると、相手クラスの生徒たちはできる限り丹生から離れた位置でパスを繋ぎ、流れるように追加点を得た。
これでスコアは14-19。このままでは追いつくどころか更に離されてしまうだけだ。
「悪い、ぼーっとしてた」
「何惚けてんだよ。勝負はここからってところ見せてくれるんだろ」
先程の俺の思いが伝わってか、前半とは打って変わってやる気に溢れる丹生を見て、俺も負けていられないと気合を入れ直す。
和泉のスローインが丹生の手に渡り、攻撃が始まった。俺たちはしばしパスを繋げながら相手を揺さぶる。そしてボールがゴールへ近づき、一瞬丹生へのマークが強まったのを見て俺はゴール下に向かって走り出す。
「存瀬!」
丹生は軽快なドリブルで相手陣地へと切り込み、作戦通り俺にパスを送る。ノーマークの俺は、ただ落ち着いてシュートを決めるだけでいい。
俺が放ったボールは綺麗な放物線を描き、リングをすり抜けて、ゴールネットがバサッという音を立てた。
「存瀬くん、ナイスシュート!」
和泉が真っ先に駆け寄ってきて俺にハイタッチを仕掛けてくる。
「おい、まだ勝ったわけでもないし、スコアでは負けてるんだからそんなにはしゃぐな」
「とか言って、シュートが決まったあと小さくガッツポーズしてたの、僕には見えていたけど?」
「う、うるさい!」
だって仕方ないだろう?前半までの無策の状態でのシュートと、作戦が成功した今のシュートでは一本にかけた思いが違うのだ。はしゃぐ俺たちを見て丹生が言った。
「まだ一本だ。次も決めてくれよ」
「ああ、もちろん」
続く相手の攻撃を止め、再び俺たちの攻撃に切り替わる。相手には、先ほどの俺のシュートは未だ大した脅威とは認識されておらず、再びほとんどフリーの状態から俺の後半二本目のシュートが放たれた。
スコアは18-19。俺たちは再びあと一本というところまで漕ぎつけた。
さあ、ここで気合を入れ直そうという時、外野から声援が聞こえてきた。
「「Cクラスのみんな、頑張れー!」」
それは、体育館のもう半分を使って行われていたCクラスのバレーボールへ出場していた女子たちの者だった。ということは、その面々の中には当然氷見沢もいる。
俺と和泉意外(以外)の三人は、女子たちの声援を受けてわかりやすく気合いが入っていた。そして俺たち二人はというと……。
「なんだかやりづらいね」
「同感だ」
むしろいつも通りの、俺たちは俺たちの調子で試合の続きに臨めそうだ。
***
ブーッというブザーの音が響き渡り、試合終了が告げられた。得点板には「24-23」のスコアが掲げられている。
試合は取って取られての点取り合戦に移行し、接戦を繰り広げた。それまでの活躍から警戒が強まって思うようにシュートチャンスを作れなくなった俺を見た丹生の、機転を効かせたノーマークの和泉へのパスが勝敗を分けることとなった。
「最後のシュート、ナイスだった」
「存瀬くんがあれだけ頑張ったんだから、僕もあれぐらいは決めないとね」
試合を終え女子達からの労いの言葉もそこそこに、俺たちは体育館二階のキャットウォークへと上がり、試合後の熱を冷ましていた。
「それにしても、存瀬くんが『俺にボールを集めろ!』と言った時は少し驚いたよ。それに、今日のシュート成功率、いつの間に上手くなったんだい?」
確かに、前日までの俺のシュートは散々で、とてもじゃないがこんな思い切った行動をするとは、和泉も予想だにしていなかっただろう。
「練習の成果ってやつだよ」
「まあ確かに、存瀬くんが一生懸命練習してたのは僕もそれなりに知ってるけどさぁ……」
和泉は何かが引っかかるとでも言いたげな様子だが、俺からは特に話すつもりはない。万が一氷見沢に練習に付き合ってもらったなんて言ったら、根掘り葉掘り聞かれて、面倒なことになるのが目に見えているからな。
「まあ今はそれより、勝利の美酒に酔いしれようぜ」
「……っぷ、美酒って。いちごオレ片手に言われてもカッコよくないよ存瀬くん」
慣れない冗談を言ってみたが、和泉には案外ウケたようで俺たちは顔を見合わせて笑った。
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