第34話
「さてと……。お目当ての台は……」
「あー、アルマくんじゃん!」
「げっ……」
目的の物を探してゲームセンターを彷徨っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ちょっとー、その反応はないんじゃない?」
例のダンス対決以来、会うたびに勝負を挑んでくるようになった音城に対してこんな反応になってしまうのは仕方がないだろう。
まあ、そのたびに勝負を受けてしまう俺も俺なんだが……。
「悪いが、今日は勝負はなしだ」
「えー?前回私が負けたから、今日はリベンジしようと思ったのに……。勝ち逃げなんて卑怯だ!」
「はいはい。また今度な」
俺は「ぶー」と頬を膨らませている音城を軽くあしらって、他のコーナーへと向かった。
***
「なにしてるんだアイツ……」
音城は先ほどから、俺が場所を移動するたびに後をついてきている。俺が気づいていないと思っているのか、未だに緊張しているような表情でこちらを見ながら。
実は、俺はあの後すぐに今日の目的である、バスケのシュートゲームを見つけた。しかし、音城に見られているせいでそのゲームに手が出せないでいるというわけだ。
普段こういうスポーツゲームを全くやらない俺が、突然シュートゲームなんて始めたら音城は疑問に思うだろう。
音城は俺が紅楓高校の生徒であることを知っているため、俺が急にバスケのシュートゲームをやり始めたことと球技大会が結びつく可能性もある。
そんな理由によって先ほどから膠着状態が続いていたのだが、俺も流石に痺れを切らして目的の台の前に立った。何か言われたら、適当に誤魔化せばいいだろう。そんな安易な考えのまま。
俺はクレジットを追加して、早速ゲームをプレイすることにした。
さて、どうやらこのゲームは、三十秒間ひたすらボールをゴールに向かって放てばいいだけの単純なルールらしい。
流石にこの距離なら俺でも簡単に入れられるだろう。まずは二秒に一本のペースでシュートを打つとして、三十秒で十本入れば上出来といったところか……。
「よし、ゲームスタート!」
気分が乗ってしまった俺は、誰かに聞かれでもしたら恥ずかしい独り言を呟きながら、ゲーム開始のボタンを押した。
まず一本目……。
「ガシャン」と音を立てて、ボールはリングに弾かれた。その後二本目、三本目も、立て続けにリングに弾かれている。
……結局、俺のシュートはことごとくリングに弾かれ、三十秒の成果はたった二本のシュートだった。
俺はあまりの自分のセンスの無さに、早くも心が折れそうになっている。
すると、どうやら今の俺の様子も見ていたらしい音城が、俺の方へ近づいてきて言った。
「アルマくんがいきなりバスケのゲームを始めたかと思ったら、全然入ってなくて笑っちゃったよ!」
勝手に見ていたくせに、腹を抱えて愉快そうに笑っているその姿には、若干……いや、かなりイラッとくる。
「なんだ?冷やかしなら俺はもう帰るぞ」
「あー、ごめんごめん!つい面白くてちょっと笑っちゃったけど、別に冷やかしに来たわけじゃないから!」
明らかにちょっとどころの笑い方じゃなかったような気もするが、俺はひとまず話を聞くことにした。
「アルマくんがすごく真剣な表情でやっているから、気になって見てただけだから!あと、せっかくだからこのゲームで勝負しようって提案なんだけど……」
「結局勝負なのか……」
「ただ勝負したいだけってわけじゃないよ!アルマくんは勝負事に強いから、きっと競う相手がいたらすぐに上達すると思うんだ!」
「なるほど……。それは確かに、一理あるな」
「でしょでしょ!このゲームも少しやったことあるから、簡単には負けないよ!」
「望むところだ」
勝負という言葉で火がついた俺たち二人は、気づけばしばらく腕が上がらなくなるまでプレイを続けていた。主に運動不足である、俺のだが……。
***
「いやー、ダンスゲームじゃ味わえない、久しぶりにいい汗かいたね!」
「ああ、明日は筋肉痛確定だ」
「まあでも、後半はアルマくんもかなりシュートが入るようになってたし、やって良かったんじゃない?」
「結局一回も勝てなかったけどな……。まあ初めてにしては上出来か」
俺は予定よりもかなり疲弊していて、会話を成り立たせるのもやっとだった。
「そういえば、なんでいきなりバスケのゲームをやろうと思ったの?」
だから、音城のそんな素朴な疑問に答えるのに、つい気が抜けてしまった。
「ああ、それはきゅうぎ……」
「きゅうぎ?」
途中まで言いかけて、俺は慌てて誤魔化そうとする。
「きゅ、急にいつもとは違うゲームをやりたいなー、なんて……」
……無理だ。我ながら誤魔化し方があまりにも下手すぎる。頼む。どうか誤魔化されてくれ……。
「あー、確かにそういう時もあるよね!」
いや誤魔化せるんかーい!音城が単純で助かった。
俺は上手く誤魔化せたことに安堵しながら、先ほどまで腰を下ろしていたベンチから立ち上がった。
「それじゃあ、今日は疲れたからもう帰るよ」
「そっか。じゃあまたね!」
「ああ」
音城に一言告げて、俺はゲームセンターを後にしようとした。
「あ!言い忘れてたけど、シュートゲームでシュートが入るようになっても、体育館のゴールには入るようにならないと思うよ!距離が全然違うもん!」
確かによく考えてみれば、先ほどのゲームではゴールまでは目と鼻の先。しかし実際の体育館のゴールとはまた距離が……、って、まさか!?
俺が何かに気づいた時には、音城はすでにさっきまでいた場所にいなかった。
「全然誤魔化せてなかった……」
俺は一人大きなため息を吐きながら、帰路に着いたのだった。
ーーーーーーーー
柊真くんの身バレ、進行中……。
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