第32話

「さて、この時期に男女合同で集まってもらったのは、みんなも察しの通りだと思う」


 そう言って体育教師が話し始めると、周りの生徒たちも心なしか気分が上がっているように見える。


 何か楽しいことでも始まるのだろうか。


「そう、今年も紅楓高校の球技大会が行われる時期になった!」


 その一言を皮切りに、それまで静かに話を聞いていた生徒たちからは歓声が上がった。


 俺はと言うと、急な話の展開についていけていないが。


「去年もやったから特に説明する必要もないと思うが、二週間後の本番に向けて今日からの体育の授業は、各々自分の出場する種目の練習をしてもらう」


 正直、転校生の俺は詳細を説明してほしいところだが、周りの生徒たちは早く体を動かしたくてウズウズしている様子なので、後で和泉にでも聞くとしよう。


 ……それより、もっと心配しなくてはならないことがありそうだ。


「さて、話はこれで終わりにするから、あとは各クラスで出場する競技を決めてくれ。各クラスの代表は、後でまとめて報告するように」


 そこで話は締めくくられ、CクラスとDクラスはそれぞれクラスのリーダーの指示に従って、集まっていった。ちなみにCクラスのリーダーというのは、お察しの通り氷見沢冬紗である。

 

 氷見沢はとりあえずクラスメイトたちに、出場したい競技を考える時間を五分与えたので、俺はそのタイミングで和泉に色々と説明してもらうことにした。


「なあ、この学校の球技大会には、どんな競技があるんだ?」

「去年と同じなら、確か男子がバスケと野球で、女子がバレーボールとバドミントンかな」

「なるほどな……」


 体育の授業で何度かやったことがあるものではあるが、生憎得意といえるほどの自信は全くない。


「ちなみに、存瀬くんはどっちに出場したいとかはあるのかい?」

「いや、ないな。なんせこれまでの人生でスポーツをしてきた経験がほとんどないからな」

「まあそんな気はしてたよ」


 和泉は相変わらず若干失礼なことを言っているが、俺には反論の余地もないのであえてツッコミを入れることはしなかった。


「強いて言うなら、一人一人の運動量が少ない野球の方が良い気がするが、和泉はどうするんだ?」

「僕は多分、今年もバスケかな」

「へぇ、去年もバスケだったのか」

「まあね。このクラスにはバスケ部が一人。対して野球部が四人いるから、野球の方に運動が得意なメンバーを集めて、優勝を狙おうっていう作戦だったんだ」


 確かに、戦力を分散させるよりは集中させた方が優勝の望みは上がりそうなので、理に適った作戦だ。


「実際、その作戦で去年僕たちのクラスは学年一位だったし、今年も同じ作戦でいくだろうね」

「そうか……。なら俺もバスケに出場するのが無難そうだな」

「じゃあ決まりだね。バスケの方にはそんなに期待されてないから、気楽にやって大丈夫だから」

「それは助かるな」


 話がまとまったところで、ちょうど氷見沢からも声が上がった。


「それでは五分が経過したので、各自出場したい競技に挙手をお願いします」


 それから、議論はスムーズに進行した。多くのクラスメイトが去年と同じ競技を選んだようで、特に揉めることなく決まっていった。


 俺と和泉の方も、問題なくバスケに出場することが決まったので一安心だ。


「……さてと、それじゃあ早速練習だね」

「憂鬱だが……、まあそれなりに頑張るとするか」


 俺たちは、今度はCクラス唯一のバスケ部員であるクラスメイトの指示に従って、ひとまず集合することになった。




***




「一応バスケ部だから仕切らせてもらうけど、去年のあの様子じゃまた今回も学年最下位だろうから、それぞれ適当に練習しといてくれ」


 唯一のバスケ部員であるクラスメイトは、それだけ言い残して一人でシュート練習を始めてしまった。


「あちゃー。やっぱり丹生にぶくんはそうなっちゃうか……」


 沈黙を掻き消すように、俺の横で和泉がそう口にした。


 つい先ほど、俺と和泉以外のメンバーは渋々練習を始めたので、まだ練習を始めていないのは俺たちだけだ。


「丹生ってのは、さっきのバスケ部の彼か?」

「そう。丹生くんは二年のバスケ部の中ではかなり上手な方なんだけど、プライドが高いのが難点というか……。バスケに出るクラスメイトたちは基本やる気がないから、去年丹生くんとバスケに出場してた他のクラスメイトが揉めちゃってね……」

「お前ともか?」

「いやいや、僕は平和主義だから揉めたりなんかしないさ」

「だろうな。お前が本気で揉めてるところはあまり想像がつかない」

「あはは、確かに……って、話が逸れてるよ」

「ああ、悪い悪い」


 和泉は脱線した話を再び戻して言った。


「まあそんな事件があったから、今年は多分、丹生くんもまじめにやる気はないだろうって思ってたんだけど、その予想は正しかったみたいだね」


 和泉の視線の先には、同じクラスのメンバーを放っておいて、他のクラスのバスケ部員と一緒に遊んでいる丹生がいた。


「クラスで一致団結して……とは、到底いきそうもない雰囲気だが大丈夫か?」

「どうだろうね……。まあ存瀬くん的には、気張らなくていいしちょうどよかったんじゃないかな?」

「それもそうなんだが……。なんか腑に落ちない気もするんだよなぁ」


 基本的に無気力なのに、時々お節介な一面が出てしまう。俺の厄介な性格のせいだろうか。


「まあ、せっかくの球技大会だし、僕たちも一勝ぐらいはできるように練習を頑張ろうか!」

「随分と低い目標だが……、まあそうだな。今のところ、一番チームの足を引っ張るのは俺になる可能性がかなり高いわけだしな」


 俺は自虐気味にそう言って、和泉と練習を始めた。






ーーーーーーーー


 ということで、球技大会編スタートです!隠れハイスペック男子、柊真くんの実力の程はいかに。次回お楽しみに!


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