第14話
「なあ和泉、Dクラスで有名な女子って知ってるか?」
翌日の朝のこと。俺は登校すると、早速先に席に着いていた和泉に質問した。
「Dクラス……ということは
出たな……、三大美少女。もう何を言われても驚かないぞ。
「最近三大美少女の話が話題に上がってたとはいえ、まさか存瀬くんの方から三人目の話が出てくるとはね〜」
「いや、これにはわけがあってだな……」
「大方、図書委員で同じになったってところかな」
「なんでもお見通しかよ!」
もはや怖いわ!というツッコミはなんとか胸にしまった。
「眠姫について知ってることと言えば、その呼び名の通りよく眠っていて、その寝顔がまるで天使だとか言われてるということ。あとは、起きてる時は本を読んでることが多いってことくらいかな」
「なるほどな……」
「それで、結局どうして眠崎詩苑のことが気になったんだい?」
「ああ、それはだな……」
俺は昨日の委員会で委員長に頼まれたことの内容を、和泉に話した。
「あちゃー、それは厄介な仕事を押し付けられちゃったみたいだね」
「はぁ、他人事だと思って……」
「まあ、ファンの人たちも何もなければ黙って見てるだけだから大丈夫だよ」
「はぁ……、だといいけどな」
「大丈夫だって。僕も気が向いたら見にいってあげるからさ」
「それはお前、絶対俺が困ってるのを見て楽しみたいだけだろ……」
「おー、よくわかったね」
「和泉は親切なやつだが、意外といい性格してるってことも最近わかってきたからな」
ちょうどそこで予鈴が鳴った。俺たちは一旦会話を止め、始業に備えるのだった。
**
「え、今日からですか?」
昼休みのことだった。想定外の言葉に、俺は随分と間の抜けた反応をしてしまった気がする。
その理由は、図書委員の仕事を今日から早速入ってほしいと委員長に言われたからだ。
まあ仕事は仕事だ。喫茶店のバイトと違って、ただ無機質に返事をすればいいだけの図書委員の仕事なんて楽勝だろう。この時はそう思っていた。
放課後、和泉との会話もそこそこに、俺は早速図書館へと移動した。
カウンターには既に、おそらく俺と同じ図書委員であろう人物が待機していた。俺はとりあえずその人物と挨拶をすることにした。
「Cクラスの存瀬柊真です。これからよろしくお願いします」
「Dクラスの眠崎詩苑。こちらこそよろしく」
こいつが三大美少女の三人目、眠崎詩苑か。眠そうな喋り方に必要最低限の言葉を遣う、クールな人柄らしい。
少しすると、徐々に図書館に人が訪れ始めた。幸いなことに、まだ眠崎がシフトに入ってることが広まっていないのか、ファンと思われる人たちはやってこなかった。
俺が、今日は問題なく仕事を終えることができそうだなと思っていた時だった。
「存瀬くん……だっけ?あなたは本は好き?」
暇を持て余していた眠崎が突然俺に話しかけてきた。
「好きというか、俺は本をほとんど読んだことがないな」
そもそも前の学校でも、本が好きという理由で図書委員に入ったわけではない。単に人気がなかったから、他のクラスメイトと希望が被らずにすみそうだと思って選んだのだ。
しかし、俺が正直に答えると眠崎はとても残念そうな顔をした。
「そう……、あなたは本は好きじゃないんだ……」
「い、いや、単に本を読む機会がなかっただけで、一切興味がないというわけではないぞ」
眠崎があまりに切なそうな顔で言うものだから、つい俺は興味はあるという返事をしてしまった。
「本当?なら、さっそくおすすめの本探してくる」
よくわからないが、眠崎は凄い勢いで本を探しにいってしまった。まあ、今は人も少ないから仕事の方は問題ないのだが。
しばらくして眠崎は、大量の本を重そうに抱えながら戻ってきた。
「す、すごい量だな……」
「本当はまだ足りないけど、これしか持てなかった……」
いやこれだけあれば十分だろ……。どうやら彼女は相当本が好きらしい。
とりあえず、眠崎が見繕ってきた本を一通り見て、面白そうなのがあれば借りていくことにした。
もちろん一冊だけだ。
「全部面白いけど、特におすすめは、これとこれ」
そう言って眠崎が見せてきたのは、ミステリー小説とファンタジー小説だった。しかし、俺が手に取った本は喫茶店の店主が書いたというエッセイだった。
「あ、その本は……」
「これにするよ」
眠崎が何か言いたそうだったのを遮って、俺はその本をすぐに貸出手続きに通した。
「その本はちがう」
「何がだ?」
「その本は私が好きなだけで、おすすめじゃない」
「でも君は好きなんだろう?なら読ませてもらってもいいかな?」
「う……それは、いいけど……」
「それにしても、喫茶店か……。興味あるのか?」
「その本を読んで行ってみたいと思った。でも一人で行くのは緊張するから無理」
「なるほどな……」
もしかしたら俺はこの本を読んで、読書という新しい趣味を見つけられるかもしれない。なら、一生懸命選んでくれた眠崎に少しぐらいはお礼をしないとこちらの気が済まない。
「なら、俺からは喫茶ラニってところをおすすめさせてくれ」
「ラニ……、聞いたことある。クラスの女子たちが話してた」
「俺の知り合いがそこにいるから、君が店に来たら歓迎するように紹介しとくよ」
「え、いいの!?」
「ああ、本を選んでくれたお礼だ」
「嬉しい、じゃあ明日行ってもいい?」
「明日か……、まあ多分大丈夫だ」
多分と言ったが実際には全く問題ない。だって歓迎するのは
その後、図書委員の初仕事を終え、明日のことについて考えながら帰路に着いた。
歓迎すると言ったからにはちゃんともてなさないと気が済まないのは、やはり喫茶店の仕事が俺にとって天職だからなのだろうか。
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