第13話
学校でアルマの正体についての話題が上がってから三日経つが、結局俺の高校生活が危うい事態になることはなかった
まあ、そりゃそうだよな。誰もアルマの正体が俺のようなどこにでもいる普通の陰キャ高校生だなんて思うはずもない。
最初のうちは躍起になって探すミーハーな女子もいたが、一週間も経てば本当はいないのではないかと疑う者も多くなり始めた。どうかその調子でうやむやになってくれ。
「おーい、存瀬くん?早くお昼を食べに行かないのかい?」
「ああ悪い、少し考えことをしていただけだ」
いつの間にか四時間目の授業が終わって、昼休みになっていたようだ。
俺は椅子から立ち上がると、和泉と並んでいつもの場所に向かう。氷見沢が隣の席になってから、俺たちはこうして昼休みになると、教室を出て静かな場所で昼食をとっている。
食事をしていると、和泉がいつものように他愛もない世間話を仕掛けてきた。
「そういえば、今日の五時間目は授業じゃなくてホームルームをするみたいだね」
「そうなのか?」
「うん。委員会を決めるらしい……って、朝のホームルームで言ってたけどね」
「聞いてなかったな。朝は眠いんで」
一人暮らしは時間に追われているからな。
「まあそれは置いといて。委員会か……、この学校はどんなのがあるんだ?」
「別に珍しいものはないさ。君が前に通っていた高校とそう変わらないと思うよ」
「そうか。ならとりあえず、できるだけ一人で入れる委員会がいいな」
「うーん、基本的には委員会は各クラス男女一名ずつ選ばないといけないんだよねー。……あ、でも、一人で入れる委員会もいくつかあった気がする」
「それは?」
「生徒会の会計だね」
「却下だ」
生徒会なんて目立つ場所は絶対になしだ。
「まあそう言うとは思ってたけど。他には、図書委員会や美化委員会、環境委員会。このあたりかな」
「なら前の学校でもやってたし、図書委員会にするか」
「いいんじゃないかな?図書委員会は人気もないことだし、特に争うことなく入れると思うよ」
「それは助かるな。それで、そっちは何にするんだ?」
「僕は環境委員会かな。まあ、去年もやってたんだけど基本的に仕事は花壇の水やりだけだし、なにより人気がないからね」
人気がない委員会はやる気のない人間が集まる。俺たちのような人間にとっては、その方が楽でいいからな。
昼食を食べ終わり、昼休みの終わりも迫ってきていたので、俺たちはとりあえず教室に戻ることにした。
**
佐倉先生が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。
「今日のホームルームは朝伝えた通り、委員会決めをするぞ」
うーん、やはり席替えの時とは違って生徒たちはあまり乗り気ではなさそうだ。まあ委員会なんて面倒なだけだし、わざわざやりたがる奴なんてそうはいないだろう。
「とりあえず、生徒会会計だけは先に決めておかないといけないんだ。誰かやってくれる人はいないか?」
立候補制で本当にこの面倒な生徒会の仕事を引き受けてくれる人なんているのか?
「はい、私がやりたいです」
うわー、いたよ。俺の隣に。いや素直にすごいし尊敬するんだけど、俺とは全く別の世界線で生きる人間だと再認識した。申し訳ないがやはり学校では距離を置きたいところだ。
「では、氷見沢にお願いしよう!」
周りのクラスメイトたちも、「氷見沢さんなら間違いない」と口にしている。やはり三大美少女は絶大な人気だな。
「よーし、後の委員会は適当に決めていくから、自分が入りたい委員会に手を挙げてくれ」
そこからは、何事もなくスムーズに決まっていった。図書委員を希望したのは俺だけだったので、争わずに決まったのは幸いだった。
俺は陽キャたちみたいに「公平にじゃんけんで決めよう!」、ってノリに合わないからな。
和泉の方もどうやら、無事に環境委員になれたようだ。
「では、これで全員決まりだな。六時間目は早速顔合わせがあるから、それまでは自由時間だ」
佐倉先生はそう言い残して教室を出ていった。
クラスメイトたちが騒がしくなってきたところで、俺は和泉に話しかけた。
「この後すぐに委員会があるって、随分と急じゃないか?」
俺の質問に対して和泉は、呆れたように言った。
「それも朝のホームルームで言ってたけどね」
「あ、さいですか……」
明日からホームルームの連絡はできるだけちゃんと聞こうと決意した。
**
「それでは、これより第一回図書委員会を始めます」
委員長と思わしき人物が、前に立って開始の挨拶をした。その後、順当に顔合わせと仕事内容の確認をしていった。
俺はと言うと、特に人の顔と名前を覚える気もないし、仕事内容は本の貸出・返却手続きだけで前の学校とほとんど同じだったので、大体聞き流していた。シフトが二クラスごとで割り振られているというのが少し面倒だが、あとはこれといって問題はなさそうだ。
委員会も特に問題なく終え、帰ろうとしていた時だった。
「二年Cクラスの存瀬くん、ちょっといいかな?」
急に、委員長に呼び止められた。
「なんでしょうか?」
「実は二年Dクラスの子は去年も図書委員だったんだけど、彼女がシフトの日はやけに来館者が多かったらしいんだ。どうやら彼女のファンの男子生徒がこぞって見に来るみたいでね……」
「ファン、ですか」
「ああ。君のシフトは多分その子と一緒になると思うから、彼らがうるさくして周りの迷惑にならないように注意しておいてほしいんだ」
「うっ……、わかりました……」
「ありがとう、頼むよ!」
できればそんな面倒なことは全力でお断りしたかったところだが、流石にそういうわけにもいかない。せいぜい穏便に済むように気をつけておくしかなさそうだ。
それにしても、今どきファンってなんだよ。前の学校ではそんなことなかった……、いや、あったな。そういえば俺の身内にとんでもないのが。
まあ、とりあえず困った時はいずえもんに聞くのが一番だ。明日の朝学校に着いたら聞いてみるとしよう。
そういえば、あいつと連絡先交換してないの不便だな。それについても明日話すとするか。
そんなことを考えながら、俺は帰路に着いたのだった。
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