番外編No.2
「さーて、今日はどのゲームで遊ぼうかな〜」
私は、土曜日の午前中からつい独り言をこぼしてしまうほど浮かれながらとある場所へ向かっていた。
目的地はゲームセンター。休日はよくこうしてゲームセンターに行くことが、
春休み中だって何度訪れたかわからないほどだが、それでも飽き足らない。私にとってゲームは、スポーツなんかよりも心躍るものだから。
「ねぇ、そこの嬢ちゃん。ちょっと俺たちとそこでお喋りでもしない?」
そう言って私に声をかけてきたのは、ガラの悪そうな二人組の男だった。
この辺りでこういう輩を見かけることはたまにあったが、実際に声をかけられたのは初めてだった。
「いえ、私はこれから用事があるので」
相手を刺激しないように慣れない敬語を使ったが、どうやらこの手の人間には無意味だったらしい。
「まあいいから。とりあえず向こう行こうか?」
男の一人がそう言うと、私の腕を掴んで無理やり人気の少ない路地裏へと連れていく。
「興味ないです。腕を放してください!」
しかし、そう言ったところで男たちは聞く耳を持たない。それにこんな人気のないところで声を上げたところで、誰にも気づいてもらえない。
私は、恐怖で押しつぶされそうになっていた。そんな時だった。
「お巡りさーん!こっちです!」
不意に表の通りから、若い男性が声を張り上げながら近づいてきた。そしてその男性は、私を庇うように正面に立った。
「なんだコイツ、舐めてんのか?こちとらサツに絡まれないように、わざわざ交番から遠いとこ選んでんだよ。そういやこの前も同じようなこと言ってたやつがいたな。まあ、結局ハッタリだったからそいつはボコボコにしちまったけどなぁ!」
ただのタチの悪いナンパ師のくせに、なんて用意周到なのか……、というそんなツッコミは置いておいて。本当にハッタリなら、これは少しまずい状況かもしれない。
二対一ではこの人が危ない目に遭ってしまう。そんな考えが頭をよぎった。
「ネタ被りとか聞いてねぇ!」
しかし、その予想は助けに入ってきた男性の思いもよらない行動で外れることになった。
「え、ちょっと!」
私の声はどうやら耳に届いていない様子で、私の手を掴むといきなり走り出した。
そのまま彼に連れられて、喫茶店の裏口に通された。走ることに精一杯で、カフェの裏口から勝手に入るなんておかしいとこの時は思わなかった。
「あの、助けていただいたところ悪いんだけど、そろそろ手を離してもらってもいいかなー、なんて」
呼吸が整ってくると、今の今まで手を繋いでいたことが急に恥ずかしくなってついそんな言い方をしてしまった。
でも、ナンパ男たちに無理やり腕を掴まれた時と違って、不思議と嫌じゃないというか、むしろ嬉しいと感じたのは事実だ。
**
「それじゃあ、俺の役目はここまでだな」
すっかりフランクな喋り方になったアルマくんは、私がゲームセンターに行くのに付き添ってくれたのに、どうやら一緒には遊んでくれないらしい。
「せっかくだから、一緒に遊んでくれたっていいのに」
アルマくんと別れて、そんな独り言がこぼれた。
アルマくんが私のことを美少女なんて言うから恥ずかしくなってつい逃げるようにゲームセンターの中へ入っちゃったけど、せっかくなら一緒に遊びたかった。
学校のみんなは私の趣味を理解してくれているけど、一緒に遊ぶような友達はいないから同年代の子と一緒にゲームをするのは私の夢だった。
せっかくゲームセンターに来れたというのに、少し気分が下がってしまっていた時だった。ふとあることを思い出した。
「そういえば、アルマくんってどこかで見たことがあると思ったら、いつもここにくる度にダンシスを披露してた人じゃん!」
店長に会いにいくと言うことは、おそらく今日もやるはず……。だったらアルマくんより先に店長のとこに行って私とアルマくんが勝負することを提案してみよう。
あの店長のことだから、きっと乗ってくれるに違いない。何より私はこの店の常連であり、ダンシスのトップランカーなんだから。
**
うわ〜、すごく人が集まってる。これ全部アルマくんのファンかな?
「トップランカーのプレイを生で見れるなんて!」
「この店の常連といえばカグラさんじゃないか?」
よかった〜。私のファンもいるみたい。もちろん負ける気はないけど、完全にアウェーじゃテンションも上がらないからね。
「まさか俺の相手が音城だったとはな」
「ふふっ、びっくりした?」
「まあな。お手柔らかに頼むよ」
私たちは短い会話をすると、勝負の準備を整えた。この縁を手放さないために、私はこの勝負に勝ってアルマくんに質問をする!
……そして本当に僅差で勝負の決着がついた。前に見た時はここまで上手くなかったはずなのに、勝負どころで別人のようなセンスを発揮していた。これは、次やったらどっちが勝つかわからないかな。
でも、だからこそゲームは面白い。アルマくんとゲームをできて楽しかった。でもそれはそれ、これはこれだ。
「じゃあ約束通り、一つだけ質問に答えてもらうよ!」
私が聞きたいのは、どこの高校に通ってるのかということ。年はきっと私と同じくらいだろうから、高校さえ分かれば本当のアルマくんと繋がれるかもしれない。
アルマくんが名前と年齢は秘密だって何度も言うから、なら高校は教えてくれるのかシンプルに疑問に思ったというのもあるけど。
「紅楓高校だ」
ええっ!?それって……、私と同じ学校じゃん!アルマくんが嘘をついた可能性もあるけど、それはないって信じたい。私を助けてくれたのは運命だって、ちょっと子どもっぽいかもしれないけどそう思ってもいいの?
その日はアルマくんと別れた後も、彼のことがずっと頭の中でぐるぐるしていた。
「そういえば、男の子とあんなにたくさん喋ったの久しぶりかも……」
一度そう思ったら、急に自分が変なことを言ってないか心配になってきた。次アルマくんに会った時、どんな顔して喋ったらいいんだろう。
本当はアルマくんが働いているカフェにも行きたいけど、それはもしかしたら当分先のことになるかもしれないな……。
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