第12話

「じゃあ約束通り、一つだけ質問に答えてもらうよ!」

「答えられる範囲でならな」

「ではズバリ、アルマくんはどこの高校に通ってるの?」

「高校か……」


 もしこれを教えて探されるのは面倒だが、勝負で負けたのは事実。まあ俺の正体がバレることはないだろうし、これぐらいなら教えてもいいか……。


「紅楓高校だ」

「わ、そうなんだ!私と同じだね!これって運命かも、なんて……」


 運命かどうかは知らないが、同じ学校の生徒だったとは。まあ別にその可能性を想定していなかったわけではない。どうせバレないと思っていたから質問に答えたのだ。


「ちなみに、学年は……」

「質問はひとつだけの約束だったよな?」

「うう、そんなぁ」

「学校では目立ちたくないんだ。周りに言いふらしたり、わざわざ探したりしないでくれよ」

「そこは大丈夫だよ!私、ゲーマーだからなかなか普通の女子高生っぽい話で盛り上がれないんだ!」

「いや、そこは誇るところじゃないけどな?」


 友達が少ないと聞くと、自分と同じなので親近感が湧いてくる。しかし、俺はともかく、こんな美少女に友達がいないなんて話があるのか?


 正直なところ半信半疑ではあるが、彼女が約束を違わない人物だと信じることにした。



**



 月曜日、週の明けとなって今日からまた一週間、学校生活が始まる。


 土曜日は想定外が重なってしまい、昨日は自宅で誰とも関らずゆっくり休息を取ったので、今日は朝からとても調子がいい。


 もう歩き慣れたルートを通って、俺は教室へと向かう。廊下を歩いていると、何やら今日もまた一段と騒がしい様子だった。


 ……隣の教室が。


 俺はなんだか嫌な予感がしたので、とりあえずその方向には目もくれず、そそくさと教室へ向かい、自分の席に着いた。


「おはよう、存瀬くん」

「ああ、おはよう」

「それで、今日もまた随分と愉快な状況だと思わなかったかい?」

「まあな。また先週の金曜日みたいな騒ぎかと思えば、どうやら今日の会場は隣の教室みたいだな」

「主役も隣の教室の生徒だよ」


 自分のクラスメイトすらまだ覚えてられていない俺が、他のクラスの生徒のことなど到底わかるはずもない。


「それで、その主役ってのは?」

「Bクラスの音城神楽って人だよ」


 よりによって俺の知ってる人間かよ……。しかもアイツ……、めちゃくちゃ友達いるみたいじゃねーか!


「で、その音城さんとやらがこんな人気なワケは何なんだ?」

「どうやら彼女は、土曜日にあの『アルマ』とダンスゲームで勝負をしたらしくて、それで女子たちから質問攻めを受けてるとか」

「なるほどな……。あれそんな注目されてたのか」

「まあ、あのイベントはSNSで拡散されただけじゃなく、生配信もしてたみたいだからね」

「生配信……?」

「うん、主催のゲームセンターの公式アカウントで店長さんがめちゃくちゃ興奮しながら実況してたよ。僕も暇だったから少しだけ見てたけど……」


 まさか、勝手に生配信までしてくれちゃってたとはなぁ!もう、ヤツの提案には乗らないからな。


「だが、とりあえず今度会ったら一回シバく……」

「ど、どうしたの存瀬くん。目が完全に据わっちゃってるけど……」

「いや、問題ない。ちょっとある人物に強い殺意が芽生えてしまっただけだ」

「それは、大問題だと思うけどね」


 話が逸れてしまったな。まずは目の前の問題について把握することが最優先だ。音城が本当は人気者だって言うなら、俺との口約束なんて簡単に破られてしまうかもしれない。


「その音城さんとやらが、女子たちに大人気なのはわかったが、どうやら男子たちの目もかなり引いているようだが?」


 もしや……、アルマに男性のファンが?


「あー、それは音城神楽が三大美少女の一人だからだよ。音姫って呼ばれてる」


 デスヨネー。男性のファンが少しでもいたら嬉しいなーとか一瞬でも思ったけど、現実はそんなわけないですよね……。


「って、三大美少女?!」

「う、うん。そうだけど……」


 やっぱりめちゃくちゃ人気者ってことじゃねぇか……。アイツ……、俺に嘘をついたな!


「まあと言っても、三大美少女っていうのは多分本人たちは無自覚なんだよね。三人とも、あまり特定の人とずっと一緒にいることはないから」

「なるほど……。じゃあつまり、今日はたまたまアルマの話題で人が集まってて、男子の視線は割といつも通りってことか?」

「そういうこと」


 じゃあやっぱり、音城も俺と同じ友達いない組か……。よし、今度お前と仲良くなれそうな女子を紹介してやるからな!


 ちなみに、その女子というのは氷見沢のことだ。和泉が言うとおりなら、三大美少女はどうやら特定の友達がいないらしいからな。そのうち同じ日に店に呼んで、会わせてみるのも面白そうだ。完全に他人事だけど。


「存瀬く〜ん?なんだか悪い顔をしてるけど……」

「……ああ、ちょっと考えことをな」

「つまり悪い考えことなんだね……」

「おい、変なことは考えてないぞ。だから、引くわーってそぶりやめろ」


 とにかく、どう考えたって注目の的の三大美少女のうち、一人どころか二人も関わりができてしまったのは大変不本意ではあるが、俺がこの学校に通っていることを音城が喋ることはなさそうだからとりあえず安心だな……。




「おい聞いたか?」

「アルマ様がこの学校の生徒かもしれないって」

「しかもあの音姫がご執心だとか」


 


 突然、先ほどよりも大きな声で女子たちが騒ぎ出したかと思えば、男子は男子で天を仰いだり地面に這いつくばったりし始めた。


「へー、どうやらアルマがこの学校の生徒で、音姫がアルマにご執心……か」

「いや和泉お前、耳よすぎだろ」

「人の会話にちょっと敏感なだけだよ」


 いや、ツッコミどころはそこじゃない。まさか音城のヤツ、喋りやがったのか?一瞬でもお前を信じた俺がバカだった……。


 ま、まあまだ大丈夫だ。学年はバレてないし、周りの人間たちはこの学校にいるという確信を持っているわけではない。あくまで噂止まりだ。


「お二人とも、おはようございます」


 俺たちにそう声をかけてきたのは、ちょうど登校してきたばかりの氷見沢だった。


「あ、氷見沢さんも聞いた〜?」


 おい和泉、まさかお前?


「アルマがこの学校の生徒かも知れないって噂!ああでも、氷見沢さんはこう言う話は別に……」

「いえ、興味あります!それは本当ですか?」

「おお、すごい食いつき……」


 そして二人はアルマの話で盛り上がるのだった……。


 って!なんか色々とまずい状況になっている気がするんだが……。さすがにこれ以上、厄介事は増えないよな?


 増えないよな?


 そんなことを願っているうちに予鈴が鳴り、生徒たちは自分の席に着席していくのだった。

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