第3話
新たな学校の始業の日は、あっという間に訪れた。
今日は俺が今年から通うことになった学校、
なぜ二年生の俺がすでに学校に来ているかと言うと、転入生ということで少し早めに来るように言われていたからだ。
「さてと、まずは担任の先生に挨拶をするところからだな」
**
「初めまして。今年度からこの学校でお世話になります。存瀬柊真です。よろしくお願いします」
「おお!君が存瀬か!教頭先生から話は伺っている。私は君が加わることになる二年Cクラスの担任の
第一印象は華奢で美人な若い女性だったが、どうやら俺のその見立てとは裏腹に、快活な人のようだ。
俺がそんなことを考えていると、佐倉先生がとんでもないことを口にした。
「実はこの学校では一年生から二年生に進級する時にクラス替えがあってな、今日のホームルームでは一人ひとり自己紹介をしてもらおうと思っているんだ」
「えーと、つまり?」
「君は転入生だから特別に紹介しなければいけなかったのだが、ちょうど私のクラスで名簿が一番若いのが君だったので、自己紹介のトップバッターを務めてもらおうと思っている」
マジすか……。いきなりハードルが高すぎやしませんかね?
「なに、安心してくれていい。インパクトは十分だ」
俺は親指を立てて笑顔を向けてくる佐倉先生に「そんなもんいらねーよ!」と全力でツッコミたくなる気持ちを必死に抑えた。
こちとらただでさえ陰キャで注目されるのが苦手だってのに、さらには身バレの心配もしなきゃいけないんだよなぁ……。
だが、そんな俺の苦悩をこの人が知るわけもない。
「では、とにかくそういうことで頼むぞ。時間になったら教室に来てくれ。それまでは校舎を好きに見て回ってくれていい」
「分かりました……」
てことで俺は職員室を追い出されたわけだが……、と言ってもどこにも行くあてがない。なぜならどこに何があるか分からないから。
とりあえず適当に歩いてはみたが、すれ違う教師に毎回怪訝な顔をされるのが気まずくなったので、仕方なく人がいなそうなトイレに逃げ込むことにした。
さて、こやることもないし自己紹介の練習でもしときますか。
「それじゃあ出来るだけ声のトーンを下げて視線を下に向けて……、よし完璧だ!」
これなら間違いなく俺と「アルマ」を結びつけられるやつはいないだろう。まあ、俺の陰キャぼっち高校生活も間違いないけどな。でも俺にとってはそれが一番気楽でいい。
そうこうしているうちに、そろそろ時間のようだ。クラス発表を見て一喜一憂する生徒たちの声が聞こえてくる。
俺もそろそろ移動しないとな。
**
「はあ……はあ…」
そういえばどこに何があるか全く分かってないの忘れてた……。おかげで息が完全に上がってしまっている。
ここへくる途中、見覚えのある顔が多すぎてだいぶ焦った。なんだよここマジで常連多すぎるだろ……。
メガネと長い前髪によって自分の顔はほとんど見えないと分かっていても、俺は出来るだけ下を向くことにした。
俺が廊下に立っているのを登校してきた生徒たちが一瞥していくが、話しかけようとする者がいないのは幸いだった。大方、「あんな奴いたっけ?」とは思いつつも、「ただの目立たない奴か」とでも思われているのだろう。
「よーしお前ら、席につけ」
教室に入ってきた佐倉先生の一声で、クラスメート達は大人しく席に着いていく。
「もう知っている人も多いと思うが、一応自己紹介をしようか。私は今年度から君達の担任になった佐倉だ。去年受け持っていたクラスのやつもちらほらいるようだな。これからよろしく」
生徒たちの様子を見るに、佐倉先生はなかなか人気のある先生らしい。どうやら担任は当たりだったようだな。
「よーし、じゃあ次は君達の番だ……と言いたいところだが、実はこのクラスに転入生が加わることになった」
あ、俺自己紹介トップバッターだったよな……。誰のせい……?佐倉先生だ。
……やっぱハズレじゃねぇか!!
「よし、入れ!」
え、あちょ、まだ心の準備がぁ……。
俺が教室に入る前の喧騒が、俺が姿を現したことによって一瞬で静まった。
「存瀬柊真です。〇〇高校から転入してきました。よろしくお願いします」
よ、よし。これは完璧に無難な自己紹介が決まった……ってあれ、なんだかみなさん、残念そうな顔してません?
いやいや、分かってはいたけど、そんなあからさまな感じにされると流石にメンタル死ぬよ?
「存瀬はまだこの学校の校舎について詳しく知らないから、みんな教えてあげてくれ。……よしじゃあ次、
俺の自己紹介は佐倉先生によって一瞬で流されたので、大人しく最前列の端の席に着いた。
それから、やけにテンションが高いやつだったり、自分の趣味をアピールしたりと様々なものがあったが、滞りなく自己紹介は進んだ。
「それでは改めてこれからよろしく!ということで、次は始業式だから体育館に移動しろ」
佐倉先生が最後にそう言って自己紹介を締めた。そして、みなぞろぞろと体育館の方へ向かい始めた。
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