第12話『クエスト名:森の奥にあるデカい館』
「金欠だ」
「なんすかいきなり……。そんなに金欠ならクエストでも……あぁ」
今日も今日とてMSWにログインした一。が、とある事に気が付いた。いわゆる金欠である。真面目に金が無いのである。1Gも持っていない。理由は一つ、クエストが受けられないのである。
「ギルドに行ってもクエストくれないんだよなぁ……」
「忘れてたんすかねぇ?魔物はクッソペナルティが重いって言ってるじゃないっすか」
「うん。と言う訳でなんかクエストが欲しいんだけど」
「はぁ……。まぁいいっすよ。誰も受けたがらないクエストしかないっすけど」
と言う訳で、リナに手伝ってもらいクエストを受ける事となった。クエスト名は『森の奥にあるデカい館』。『ナカジャングル』の奥にあるクソデカい館を調べて来いとの事である。
「なんでこれが手付かずなんだ?誰でも出来そうだが」
「仕方ないんすよ。……今だに誰も発見出来てないんすから」
「なんだそりゃ。森の奥にあるって言われてるなら、誰でもわかるだろ」
「えぇ。でも無いんすよ。グルグル回ってなんだかんだあって、最終的に入り口にみんな帰ってるんすから」
「はぁ」
なんと、館を探そうとしても最終的に入り口に行ってしまうと言う、いわゆる迷いの迷宮なのである。コンパスを使っても、地図にマッピングしても、ロープを腰に付けても。
絶対に入り口に戻ってしまうのである。
「そりゃ厄介な」
「だからこいつはもう誰も受けないクエストなんっすよ。しかもアレっす。初期も初期からあるクエストなんで、誰がコレをクエスト表に入れたのか分からないんすよ」
「もう一周回って幽霊とかじゃないのか?」
「ちょ、止めてくださいっすよそういうのは……。ウチ幽霊とか嫌いなんすから」
「今度とびっきり怖い話でもするか?」
「何故!?やめてくださいっす!」
そんなことを言いながら、イチカはその館がある森へと向かう。道中出てきたモンスターはぶちのめしつつ、その入り口にたどり着く。なぜ入り口に戻ってしまうのかと、イチカは少し考え、面倒なので一回全部の木を切ることにしてみた。
「多分、誰か一回はやったんだろう……よっ!」
両腕を切り落とし、根元を締め上げ圧縮することで水の放出威力を上げる。そしてそれを横に振ることで、ジャングルは一瞬で更地に変わる。
「……おや?」
が。瞬きをした一瞬の隙に、木々は先程と同じようにモリモリと戻ってしまう。まるで初めからそうだったかのように。確かにこれでは、場所を見極めることなど不可能である。
「燃やす……。いや、多分無駄だな。コレは木じゃない。木に見せかけた何かだ。触った感じも木材っぽくないんだ」
「お兄さん、何してるの?」
「ん?うおっ、どこから来たんだキミ」
材質を確かめている途中で、いきなり幼女が話しかけてくる。どうやらプレイヤーではないらしい。だが完全にNPCと言う訳でもないようだ。
「私は『ユナ』!ここに住んでるの!」
「……ユナちゃん?と言うかここに住んでるって……どういう事?」
「あっお兄さんもいってみる?私の家!」
困惑、だが恐らくクエスト関係だろう。早速その幼女、ユナについていく事にした。しばらく後ろをピッタリとくっ付いていくと、確かにでかい館がそこにはあった。
「でっか」
「まぁね!」
「お嬢様!また変な者を……」
「んもー、『シツジ』はうるさいなぁ!いいじゃん隙だし!」
「申し訳ありません……。とは言えここに来たのも何かしらの縁、泊っていってはいかがでしょう」
ユナに連れていかれた先は、クソデカい館の前。その前には明らかに執事らしい爺さんが、ユナの帰りを待っていたようである。
「はぁ。ではご厚意に甘えて……」
そんな訳で、一晩この館で過ごすことになったのであった。
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