第11話『姉弟』


「ん-……?あれ、もう夜?」


「まだ夕方だよ。でもおはよう姉さん」


「ん-。お腹すいたー」


外で大暴れしている二人をよそに、一は姉を起こしに来ていた。ちなみに姉の名前は『ふう』と言う。二は眠い目をこすりながら、一階へと降りていく。


「今日は姉さんの好きなものだからね」


「わーい!」


外から異様な打撃音が響いてくるが、気にしないことにした。とりあえず料理を温めて、次々とテーブルに乗せていく。


「……美味しい?」


「んー。美味しいよー」


「そっか。……それにしても、もう十年も経つんだよね。アレから」


「……そだねー。……今はこの話、止めない?」


「だね。せっかく作ったご飯が不味くなる」


そして一も料理を食べようと箸を手にした時、普通に玄関を開けて碑矩らが入ってくる。


「ワハハ!まだまだ現役じゃよ碑矩!」


「あっ師匠さんだー。お久しぶりですー」


「おぉ二ではないか、久しぶりじゃな!げぇむとやらで世界一位になったと聞いたぞ?ワシも試させてもらおうか!」


「師匠機械音痴なんだから無理でしょ。自分が言えた立場じゃないんですけど」


「それもそうか!ワハハ!」


結局そのままわちゃわちゃと夕食は終わり、この日はお開きとなった。二人が帰った後、皿などを片付けながら、これからどうするのか一はそれとなく質問をする。


「ねぇ姉さん」


「どうしたの一」


「……姉さんはやらないの?MSW。アレ結構楽しいけど」


「へー。まぁ姉さんには向かないかなぁ。どっちかって言うと私は、一対一のゲーム専門だからねぇ」


「……そうなんだ」


しばらく沈黙が続き、風呂が焚けたので入ることにした。……なぜか二も一緒に入ろうとしてくるが。


「姉さん。流石にちょっと」


「ひどい!一年ぶりに再開したのに一緒にお風呂入ってくれないの!?」


「……姉さんが良くても俺がよくないの。恥じらいを持て恥じらいを」


「や!一緒に入るの!」


子供のようにジタバタと暴れる二。一はため息をつきながら、仕方ないと水着を持ってくる。


「これ着るならいいよ姉さん」


「ほんと!?やったー!」


一も水着を着て、二人で風呂に入る。一人で入るように設計されている風呂の大きさなので、二人で入った場合はもうぎゅうぎゅうであった。


「狭いね!」


「……だね」


しばらくぱちゃぱちゃしていると、不意に二が一に対してこんなことを聞いてきた。


「ねぇ。……寂しくなかった?」


「なんだよ姉さん。いきなり」


「いや、私はいろんな人と出会ったし、ゲームで戦ったりもしたからそんな寂しくは無かったんだよ?……でも、一はいっつも一人だから」


「……ほら、俺には碑矩がいるし」


「噓でしょ?多分二ヶ月くらいあってなかったんじゃないの?」


こういう時だけ勘が鋭い二。こうなってはごまかせないと、本当の事を言い始める一。


「……正直。何をする気もなかったんだよね。姉さんもいないし」


「ダメでしょ?たまには外に出て日光浴でもしないと。人と話してないと、つまらなくなっちゃうよ?」


「結構ボロクソに言ってくるよね。姉さん」


「……お姉ちゃんは一の事が心配です!ちゃんと誰かと話しなさい!」


「はぁい」


むなしい表情をする一。それもそのはず、一の行動原理は全て姉の為であり、それ以外に何をする気も無いのだ。故に、他人と関わりを持つこともなく、一人でこの家で過ごしてきた。


「じゃあ俺は上がるね姉さん」


「えーっ!?もうちょっと入っていようよぉ!?」


「もう十分温まったでしょ。ほら上がりなさい」


「うぅ……」


そして体を拭き、パジャマに着替えさせた後ベッドに寝かせる。


「じゃ、お休み姉さん」


「ん、お休み」


そして一もまた、ベッドに入って眠りにつくのであった。

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