第10話『俺のリアル』
「さてと……。姉さんはまだ起きてないや」
ゲームからログアウトした一。時間を確認してみると、約二時間程度プレイしていたようであった。だが姉は目覚めていない。いまだスヤスヤ眠っている。
「よし。買い出しに行こう」
一は姉が目覚める前に、色々買い物を済ませることに決めた。姉はこうなってしまえばもう夜まで目覚めないだろうと言う、姉弟だから知っている情報によるものである。
「さてと……」
ここで、一の家近辺に関して少し補足しておこう。まず、一の家は海に近い。大体徒歩二分で海に着く。代わりに家の周りには何もない。マジで何もないのである。
他の家も、ぺんぺん草さえも生えていない。本当に、本当に何もないのだ。その為基本的に買い出しはチャリで行う事になる。車の免許は持っていない。未成年なので。
「今日は何にするかなぁ」
チャリを漕ぎながら、とりあえず二人分の食料を買いに行く一。近くのスーパーですらチャリで二十分もかかる。なのでアイスやら冷凍食品やらは冬にしか買えないのだ。
「やっぱり遠いよなぁ」
「ん?お前一か?一だよな!?」
「ん-……。んぉお!?碑矩?!久しぶりだなぁ!二ヶ月ぶりか?」
「だなぁ!で、買い出し?荷物持つか?」
スーパーに着いたところで、一は碑矩火焔という男と出会う。この碑矩火焔は誰かと言うと、シンプルに幼馴染である。更に両親のいない一ら姉弟を金銭的に支援していたりする。
「あっそうだ、たまには道場に来てくれよ。師匠もヒマそうにしてるからさぁ」
「いやそれは良いんだけどさ。無駄に強くなってる気がするんだよね僕」
「そうか?どっかで役に立つよきっと。変な奴に絡まれたときボコボコに出来る」
「姉さん守れればそれだけで十分なんだけど」
「まぁウチの拳法は護身術だから。そういう意味じゃ役に立つぞ」
ちなみに、一は碑矩のいる道場で、師範代と言う称号を手に入れている。表流なる拳法名の、クッソ胡散臭い道場。そこそこ人がいる以上、それなりに賑わっているようだが。
「まぁまぁ。……姉さん?えっもしかしてお前の姉ちゃん帰って来たのか!?」
「あっ……。うん。実は帰って来たんだ」
「マジで!?よっしゃパーティーしようぜパーティー!お前の姉ちゃんとはゲームでも一度お手合わせしたいしな!」
(相変わらず戦闘狂だよなぁ碑矩は。まぁいい奴だけど)
そんな訳で、この二人は奇妙な腐れ縁なのだ。色々と他の人には説明しずらい関係である。そして買い物を終え、二人は家に帰る。
「悪いな、碑矩」
「たまにはいいだろ?お前タダでさえ誰もいない場所に住んでんだから」
「好きで住んでるんじゃねぇ。……あそこが僕らの、唯一の家族って呼べる場所なんだから」
「……。ま、いいさ。バーベキューしようぜ!師匠も呼べば来るだろ多分」
「いや師匠さんはちょっと……」
「ごめん連絡しちゃった」
「おぉい!?この野郎!」
騒がしい奴が家に来ると、頭を抱える一。家に帰ってみると、既に師匠が家に入り込んでいた。
「おぉ碑矩!と、一!たまには道場に顔を出さんか!ワシは暇で死んでしまうぞ?」
「嫌ですよ、第一殺しに来るじゃないですか師匠」
「良いじゃろ?減る者でもあるまいし」
「減るから文句が出るんだよ?」
この師匠と言う男。完全にズレている。どこか異常と言うか、生死観がどこか壊れているのだ。現在98歳になるお爺ちゃんだが、肉体年齢は病院で調べたところ50代であるらしい。凄いお爺ちゃんなのである。
「まぁまぁ!高い肉持って来たからのぉ!お主の姉が帰って来たんじゃろ?飯食って元気出して殺しあおう!」
「肉は貰うが殺し合いはしない」
「良いじゃろ殺し合い!楽しいぞ殺し合い!」
「師匠。いい加減にしないと俺が本気で殺しに行きます」
「お?碑矩よ。……殺るか?」
二人が家の外に出ていったので、とっとと鍵をかけて入ってこれないようにする。そんな中で、ちゃっかり肉は冷蔵庫に入れる一なのであった。
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