第9話『魔法使い、襲来』


「コレ貰ってくれっす」


「いいのか?コレよくわからんが凄いレアアイテムなんじゃないのか?」


「まぁそうなんすけど……。お礼っすよ!お礼!」


ヘビー・アンカーをブチのめしたイチカとリナ。現在その素材と、レイドボスを撃破した報酬を二人で分配していた。


「にしても、確実に相性勝ちだな」


「っすね。種族魔物、スライムの利点はこういうジャイアントキリングが出来るから凄いっすけど……。ぶっちゃけ雷系と氷系の魔法に対しては雑魚以下の雑魚っすからね。多分これより弱い奴よりアッサリ負けるっすよ」


「成程ね。それでここからどうする?」


「とりあえず自分は一回ログアウトしたいっす」


「そか。じゃあまた会おうな!」


「ハイっす!」


その後、リナとフレンド登録を終えすぐ、今回入手した武器の確認を始める。入手した武器は『虫王鎌むしおうのかま』。簡潔に言えばクッソデカい鎌である。


「……。どうしよう、コレ要らないんだよなぁ……。こっちはともかく」


もう一つは、リナから手渡された武器。『昆虫のDNA(基礎)』と言うモノ。魔物限定装備の一つである。何が入手出来るかはランダム、その為無意味な武器がリナに渡ったのだろう。


「これは装備しといてっと……」


とりあえずで装備した瞬間、どこからともなく魔法が飛んでくる。何とか避けたが、当たれば即死級の雷魔法。しかし当てる気は無いようだった。


「な、なんだぁっ!?」


「おぉ?人間か。悪い、誰もいないと思ってアレンジ魔法を撃ってしまった。攻撃する意図はなかったんだ、そこだけは知っておいてくれ」


「は、はぁ。魔法使い……で、いいんだよな?」


「そうだな!俺の名前は『ユウグレ』だ。よろしく」


魔法を撃ってきた男は、どこからどう見ても魔法使いと言う格好をしていた。全身に書き込まれた魔法陣、異様な分厚さの魔導書、でなぜかほぼ全裸。男はユウグレと言うプレイヤーネームであった。


「ところで、この辺りにヘビー・アンカーって名前のモンスターはいたか?」


「ん?探しているのか?」


「まぁな。今はシーズン外だが……。呼び出したバカがいてな。放っておくと初心者が殺されかねないんで……。俺一人で殺しに来た」


このユウグレと言う男。かなり飄々としている男だが、かなりプロゲーマーであるらしい。何せ今、イチカがレベルを確認した時。そこには『ユウグレ:レベル99(上限突破可能)』と書かれていたのであるから。


「このゲーム、初心者にやさしくねぇんだよなぁ。レイドボスシステムクソすぎ。今回はレベルが下がるだけのヘビーでよかったが……。『ウィンチェスター・マンチ』とか、『リリリ・メイク』とかだったら目も当てられねぇ」


「は、はぁ」


「おっと、お前さん初心者だろ?この森にレベル三十台で入ってくる奴はまずいないし、んでもって魔物だ。レベルはすぐ上がる……。つまり、お前は間違いなく『初心者で、レベリングついでにここに来た』って感じだろ」


「いやまぁそうなんですけど」


ちょっと怖いくらいにこちらの情報を当ててくるユウグレに、かなりドン引きしながら話を聞くイチカ。独り言ではなく会話であると言うのが厄介ポイントである。


「あー。喋りすぎちまった。俺の悪い癖だ……。とりあえずフレンド登録しとくか?俺強いからPKとか来たらすぐぶちのめせるぞ?」


「じゃあせっかくなんで」


「よぉし!あ、そうそう。もし『魔導書』を持ってたら売ってくれるか?それなりの値段で買うぞ俺は」


「いや今は持ってないな。手に入れたらメッセージ送るけど……」


「そうか。じゃあな!『テレポート』!」


そう言って、ユウグレはどこかに帰ってしまった。色々言いたいことはあるが、少なくとも悪い人ではなさそうだと、イチカもログアウトすることを決めるのであった。

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