第7話『もう一人の話』
「……逃げて……よかったんすかね」
イチカが散々切られている間、リナは一人戻るか否か考えていた。逃げろとは言われたが、逃げたところで勝てなければレベルが下がるし、なんだかんだ自分のせいでこうなってしまったと言う負い目がある。
「でも戻ったところで……ウチに……」
しかし、足手まといなのは事実。商人と言う職業が故に、どのパーティーにも入れられなかったし、このレベル15と言う数値もかなり裏技的に手にしたものである。
『レベルの前借り』
要はレベルを一度だけ借りることが出来るのだ。当然、その経験値は倒した魔物の経験値から差っ引かれる。無論、何かあって下がっても、その借りを返すまでは一つも上がらない。
「……ゲーム、止めちゃおうっすかね」
リナはゲームの引退を考えていた。本格的に。それもそのはず、レベル15分の借りと、下がった後上げるのを考えれば総必要経験値は25レベル。ほぼ不可能である。
「ま、まぁ。色々楽しかったっすし……」
口では止める言い訳が止めどなく出てくる。だが目からは涙がボロボロとあふれ出してくる。
「ウチは……ウチは!」
本当は止めたくない。データは一人に付き一つ、新しく作ることが出来ないと言う以上、新たに作ってやり直すと言う事は出来ない。だが負ければ、事実上の引退である。
「ウチだってやれるんだ!」
バッグからひたすら武器を取り出すと、迎え撃つ準備を始める。ボウガンに銃に大砲にと、出来るだけの武器をかき集め、立ち向かう。
「なめるんじゃねぇぞヘビー・アンカー!ウチの底力……見やがれクソ野郎!」
そしてイチカに興味を無くしたヘビー・アンカーが、リナの元へやってくる。最初から地雷やら爆弾やらを配置し、本気で仕留めに行く。だがそんな物は意にも介さないように突っ込んでくるヘビー・アンカー。
「……ッ!逃げるかぁ!」
まるで暴走列車の前に括り付けられた気分。恐ろしい重圧と恐怖に、幾度となく押しつぶされそうになる。だがそれでも逃げる気はない。ヘビー・アンカーは目前、ボウガンと銃を乱射し、大砲を撃つ。
「止まれよぉ!……ッ!せめて一秒でもいいから!」
だが一切止まらない。カほども効いていないのか、大砲すらも切り裂き落とす。何とか一撃だけは回避に成功するが、もう後も攻撃アイテムもない。要は詰み、である。
「……」
大人しく敗北を受け入れようとするリナ。だが、覚悟したのにまだ逃げようとする。涙で濡れた顔で、必死に走る。
「嫌だ……!止めたくない!負けたくない!」
たとえ逃げ腰でも、どんなに惨めでも、彼女は逃げることを選択した。それでも、すぐに追いつかれて倒されるだろう。それでも、今は逃げる以外の選択が無いのだ。
「……イチカぁ!」
最後にその名前を呼んだのは、なぜだろうか。呼べば助けが来ると思っていたのだろうか?それとも、また別の何かだろうか。ただその言葉だけが虚空に響いた。
ヘビー・アンカーはそんなことは知らんと、リナへ止めを刺しに切りかかる。その一撃は当たれば間違いなくリナを殺せるだろうし、リナももはや逃げる気力も失ってしまった。
「
だが、その言葉は確かに届いていた。
「
あの男に届いていた。
「
イチカの元に届いていた。
「よぉ、大丈夫か?」
「イチカぁぁぁぁぁ!!!」
リナを切るはずだったカマは宙を舞い、行き場を失った斬撃はイチカへ飛ぶ。だがイチカはその攻撃を軽く避けると、カマを地面に突き刺させリナと共に一度逃げる。
「さ、こっから俺たちの反撃だ!」
「はいっす!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます