第6話『勝ち目など無いと知っていても』


「うおっ!?斬撃耐性があるとは言え何度も食らうべきじゃねぇな」


一応スライムなので、斬撃耐性はある。切られてもくっ付くので問題は無い。今はともかく、このヘビー・アンカーと言う相手は斬撃が効かないと見るや、押しつぶしに来るのだ。


「チッ『ファイアー・アンカー』!」


と、ここで戦っている二人の間に魔法が叩き込まれる。その魔法はヘビー・アンカーの頭に命中したが、対して問題無いと言うように、イチカへ攻撃を仕掛ける。


「ざけんな!せめてこっち向きやがれ!『ダブル・フレア』!」


押しつぶし攻撃は何とか避けるが、斬撃は普通に命中し切られまくる。切られた端から再生しているため、致命傷にはならないが、シンプルに攻撃が通用しない。


「固い!俺の刃ぶっ壊されたんだけど!普通の攻撃じゃダメだな」


「クソ共が!ぶっ殺してやる!『最大魔法ブラッド」


と、ここで後ろからチマチマ魔法を放っていた奴が、何やらヤバそうな魔法を使おうとする。これには流石にヘビー・アンカーも少しだけヤバイと判断したのか。ついに技を解禁したらしい。


『風神カマイタチ』


上手く聞き取ることはできなかったが、恐らくそう言ったのだろう。放った瞬間、そのプレイヤーと、後ろにあったヒトトツモリその物が切り飛ばされる。


「えぇ……」


これにはイチカも驚愕の感情しか出ない。そして無慈悲にも、参加人数が二人に減る。今の一撃でイチカとリナ以外の参加プレイヤーが死んだ。流石に心が折れかけるイチカ。


「無理じゃん」


そう言いながら真っ二つにされるイチカ。何とか再生するが、どうあがいても撃破出来るビジョンが見えない。一応策が無い訳ではない。ただし、外せば恐らく死ぬだろう。


「……無理じゃん」


動きを止めた瞬間、ヘビー・アンカーは興味を失ったように走り去っていく。ここでイチカは、自分が今まで呼吸をしていなかったことに気が付く。


「ハーッ!ハーッ!」


無理やり肺に呼吸を入れ、脳に酸素を回す。倒れそうになる体を何とか支え、どうするべきかを考えることにした。


「……正直、レベルが下がっても……俺には関係ない」


これはイチカにとっての本音。多少レベルが下がろうが、大したことではない。だから逃げても構わない。逃げる言い訳だけならいくらでも出てくる。


「……でも、逃げたらリナは……どうなる?」


イチカは、このゲームのレベリングがクソと言うのは戦って理解した。確かにパーティー内で経験値は上がるのだが、魔物に対し止めを刺さなければレベルは上がらない。


商人。ハッキリ言ってまともに戦える相手ではない。どこに行ってもパーティーのお荷物である。それが10も下がるとなっては、もはや終わりなのだ。


「……」


リナは、イチカにとっては赤の他人である。ついさっき出会ったばかりで、助ける義理も一つも無い。


「でもよ」


ハッキリ言って勝ち目もない。まともに走って追いつくかどうかも分からない。


「だからってよ」


アイテムも装備も攻撃力もプレイスキルも大きさも防御力も勝てる見込みも何もない。


「見捨てるのは違うよなぁ!」


イチカはある事を、ここまでの戦いで理解していた。それは肉体再生に関する事だ。スライムは回復する速度を、自分で変えることが出来る。勢いよく再生することもあれば、ゆっくり回復することもできる。


勢い良く再生すると壊れやすいのでそんなには使わないが、今回だけは、今日だけは別である。


「名づけるなら……『液状爆撃ペットボトルロケット』ってか!?」


地面を背に、下半身を切り離して勢いよく再生。凄まじい勢いで空高く吹っ飛び、リナとヘビー・アンカーの姿を確認する。


「悪いが……俺はエゴエゴエゴイストなんだよぉっ!」


全身を武器硬化させ、回転しながら落ちていく。それはヘビー・アンカーの片腕を切断し、リナの前へ落ちていった。


「よっ、無事か?」


「イチカぁぁぁぁ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る