第2話『ログインするよ』
「……」
ログインすると、VRゲームを開始する前に必ずログインする『チュートリアル部屋』の光景が浮かび上がってくる。しばらくチュートリアル部屋の中で浮いていると、ふと誰かが話しかけてくる。
『こんにちは。お久しぶりです一様』
「えっ誰?俺の事を知ってるのは姉さんと……。うわぁ……」
そう言われ自分の事を知っている奴が誰かいるかと考え、一は誰かを思い出し、苦虫を嚙み潰したような顔をする。一もびっくりするくらいにいやな表情をしていた。
「食我の関係者か?」
『えぇ。私は『ホワイト』と言う別名を持っています。今はこの名前でチュートリアルを担当させていただいています』
「そこまで言わなくていいだろ……。と言うか、何の用なんだいったい」
『食我様からのメッセージです』
そういうとホワイトはカセットテープを投げ、その中に録音されているメッセージを再生し始める。無駄に長い内容だったので要約すると、
『お前の姉さんには色々世話になってるから、お前にこのゲームカセットをあげる。ぶっちゃけほとんど市販品と変わんないけど。まぁちょっと動きがよくなる奴だよ』
と言う事である。
「……なにこれ」
『フルダイブVRゲームは脳からの情報を、ゲーム内に入力することで動きます。このカセットでは、その入力が少し早くなります』
「少し?」
『はい。少しです。圧倒的に身体能力が上がる訳ではありません。使うも殺すもあなた次第です』
「……なんか凄い期待されてるみたいだなぁ」
恐らく姉が凄いから、弟も凄いんだろうと言う程度の感覚なのだろう。それだけでこんなものを渡されては困った話である。だがそれはそうと、期待されているならやるだけやってみようと考える一。
「ま、ちょっと頑張ってみようかな」
と言う訳で、まずはチュートリアルを開始する一。その前に名前の入力を求められる。
「本名はNG。誰でも知ってるネットマナーだね」
と言う訳で一は『イチカ』と言うプレイヤーネームを付け、MSWのチュートリアルへ向かう。と言っても大体知っている話がほとんどであったが。
「実際やってみなきゃわかんない事だらけだしね」
と言う訳で話もそこそこに、ゲーム内に降り立つイチカ。だがそんなイチカを出迎えたのはPKの集団であった。既に先に降り立った誰かをPKし、その残骸を漁っているようであった。
「うーわ、PKだ」
とは言えまだこちらには気が付いていないらしいので、コソコソとその場を離れようとしたイチカ。だがPKのうち一人がイチカの姿を目撃する。
「おいまた来たぞ!」
「やっべ」
目撃された瞬間、町がある方向へ向かって全力逃走。しかし距離はあるが、しばらく走れば間違いなく捕まると言うようなスピード差。ここでイチカは逃げるのではなく、迎撃することに決めた。
(相手は……四人か。なら何とか出来るかな?)
しばらく逃げつつ、もう少しで追いつくと言ったところで、イチカは体をPK達の方へ向け、先頭を走っていた相手の顔に拳を叩き込む。流石にレベルと装備のせいで、大したダメージにはなっていないようだが、それでも中にいるのは人間である以上、確かにひるんでしまう。
「テメェ!」
顔を抑え、うずくまる一人目をよそに、追いついた二人目が剣を手に取り、イチカに向けて振り下ろそうとする。イチカはそれを見て、一人目を盾にして剣を防ぐ。
「あっヤベ」
そのままHPが無くなったのか、ポリゴンとなって消える一人目。それに動揺した他の奴らの隙を、イチカは見逃さなかった。一人目から奪っていた剣を手にすると、素早く二人目の首に突き刺し、振りぬく。
「コ゜ッ」
流石に即死判定だったのか、体がポリゴンに変わり消える。残された三人目と四人目は、それを見て撤退することを決めたようであった。
「ふー……何とかなった」
そしてイチカは持っていた剣を投げ捨てると、最初の街である『ファスト』へ向かうのであった。
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