第39話 反撃の《いし》

 無事上陸をはたしたアイシラたち。

 だがどうやら何年も手入れがされていないようで、島は荒れ放題だった。

 とても皇帝の私有地とは思えない有り様だ。


 四人は草木がおおいかぶさって獣道けものみちのようになってしまった中央道をすすむ。

 刃物でバッサバッサ枝葉えだはを切り落としながらの進行になってしまい、予想よりも遅いペースにならざるを得ない。


「この奥に避暑ひしょ用の別荘べっそうがあるって言われたのだけれど……」


 荒く息を切らしながら、ベルトルトがうらめしそうにつぶやく。

 途中の道がこんなでは別荘とやらも期待できまい。

 野宿よりはましだと思いたいが、はてさてどうなることやら。


 うんざりしながら森の中をゆく一行。

 そこにもっとうんざりする出来事が重なった。

 敵襲だ。


「うしろ!」


 アイシラの鋭い声が仲間たちに警告する。

 後方からサルのような外見のモンスターが襲いかかってきた。

 地上に4匹。木の上にはもっとたくさん。


「うわ、わ」


 ベルトルトはおびえた様子で剣をかまえた。

 後ろからの奇襲バックアタックだ。

 前列はアイシラとベルトルト、貧弱なほうの二人になってしまった。

 どうやら敵も頭を使ってこんな戦形を作り出したらしい。


「大丈夫だって」


 アイシラは落ち着いた顔で格闘技のかまえを見せる。


「たーっ!」

 

《しんくうは》!


 アイシラの回し蹴りから真空の刃が発生し、地上のサルたちをまとめて斬り裂く。

 だがタカキほどの威力はない。敵はすべて生き残っていた。


「あちゃー」


 さすがのアイシラも自分の貧弱さを苦笑するしかない。

 拳に、槍に、魔法に。あっちこっちいとこりばっかりしているので、アイシラのステータスはどれも中途半端にしか育っていないのだ。

 おなじ《しんくうは》でも、タカキなら四匹全部退治していたことだろう。


「エイヤッ!」


 ベルトルトの鉄剣が最前列のサルにとどめを刺した。

 うんいいぞ、やればできる子。


「そらっ!」


 後列からタカキの槍がびてきた。

 穂先ほさきがサルの胸板むないたをつらぬき、二匹目を退治する。


 良い調子で戦っていたが、ここで敵が反撃してくる。


《いし》

 

 ボコッ!

 投石がアイシラに直撃。軽いダメージを受ける。


「あいたっ」


 木の上に陣取ったサルたちが上からドンドン石を投げてきた。


《いし》

《いし》

《いし》


「アダダダッ!」


 なんのうらみがあるのかアイシラに投石の集中砲火。

 いや恨みはあった。《しんくうは》の恨みが。


 全員行動を終えて、次のターン。

 ……の前に、マッチョな女戦士が樹上のサルめがけて矢をかまえる。


 パァン! とつるはじけるかわいた音とともに、矢が宙を飛ぶ。


「キーッ!」


 られたサルはバランスを崩し、地面に落ちる。

 打ち所が悪かったのかその場で気絶してしまった。


「あ、当たった、当たっちゃった!」

「イイね!」


 リーフに祝福の親指をグッと立て、アイシラは気絶したサルにとどめを刺す。

 投石のダメージはあるものの深刻なものではない。

 敵の数を減らすほうが優先。


 ここからさらにアレコレあったものの、四人は無事サルの群れを撃退した。


「ふーっ」


 魔法でダメージを回復しながら、アイシラは今の戦いをふり返る。


「さすがに前後逆になっちゃうとまだキツイわ……」


 前衛のかべやくとして、アイシラとベルトルトは心身ともにもろすぎる。もっと強い敵が出ていたなら危なかった。


 だがそんなことをいちいち考えないリーフは、新武器で敵をやっつけることができて上機嫌だった。


「この弓いいかも。

 あんな高い所にいる相手でも簡単にとどいちゃった」

「うん、さっきはありがとね。

 レベルが上がっていけばもっともっと強くなるから」

「うん、私頑張る!」


 あごの下あたりで左右の拳をにぎって気合をアピールするリーフ。

 どことなくのん気な空気を感じて、アイシラも笑顔を見せた。

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