第40話 到着、残念ながらここがキャンプ地だ

 サル型のモンスターと戦ってからさらに獣道けものみちを切りひらくこと一時間。

 一行はようやく皇族所有の別荘跡地・・に到着した。


「……これは、参ったね」


 ベルトルトが荒れ果てた屋敷を見上げてこまり顔になる

 直接皇帝に会って命令を受けてきたのは彼だ。

 きっと「別荘があるから拠点きょてんとしてそこを使うといい」などと調子のよい事を言われてきたのだろう。

 しかしこうして現地にやってきた今、あいた口がふさがらぬまま困惑こんわくするしかない。

 

 当然住み込みの使用人などはもういない。

 管理もされず長年の風雨にさらされた結果、壁の塗装とそうがはげて部分的にくさりかけていた。

 手入れもされず伸び放題だった大木たいぼくが二階の窓ガラスを突き破り、部屋の中にまで侵食しんしょくしてしまっている。

 かつては純白であっただろう壁や柱には緑色のカビが繁殖はんしょくしていて不潔ふけつな印象。

 いわゆる廃屋はいおくというやつになり果てていた。


「とりあえず、入ってみようか」


 ベルトルトは皇帝からお借りした屋敷のかぎを取り出した。

 まあ窓ガラスの割れている所があるので必須アイテムとも思えないが……。


 さて貴族のお坊ちゃまは装備を剣から鍵に持ちかえ、気品あふれ瀟洒しょうしゃだった(過去形)玄関に立つ。

 ちょっと遠くから見ていたアイシラは、廃墟になる前に来たかったなーと素直に思う。


 ガチャ、ガチャガチャ。


 しばらく立派な玄関扉と一騎打ちをしていたベルトルトは、ケンカに負けた子犬のような顔でこちらにふり返った。


「カギ穴がびていて開かない……」


 まあそんな事だろうと思っていた一行はいまさら驚きもしない。

 仕方なくタカキが力づくでこじ開けることにした。



「よいしょっ!」


 ベキベキベキ!

 

 思い切りドアを引っ張ったら、取っ手がちぎれて大穴があいてしまった。

 その穴から手を突っ込んで、扉のロックを解除する。


 ギギギギギィ……。


 開けはなたれた扉の奥から、ホコリとカビの悪臭があふれ出す。

 

「ゴホッゴホッ、これメッチャ掃除しないと使いもんになんないよ!?」


 最前列でホコリの直撃をくらったタカキが激しくむせている。

 ベルトルトはお上品に純白のハンカチで口をふさぎながら横でのぞき込んだ。


「いや我々は皇帝陛下の命をうけてここへ来たのだから、そんな時間は」


 そう言いながら広い玄関ホールを見回すベルトルト。

 現役時代はさぞ素晴らしい建物だったと思うが、あちこちに蜘蛛くもの巣が見受けられて無惨むざんなものだ。


「ワッ!」


 何事か、ベルトルトが悲鳴をあげた。


「ど、どうした!」


 敵襲かと思って身構えるタカキ。

 だが。


「ネ、ネズミだ! そこにネズミがいてこっちを見ていた!」

「……なんだよそんな事か」


 あきれて脱力するタカキ。

 しかしベルトルトは強く反発した。


「なにを言うんだ! ネズミは危険な病気を蔓延まんえんさせる害獣がいじゅうなんだぞ!」

「ああ、そう」


 都会のお貴族様にとってはそうかもしれないが、大自然と融和ゆうわした生活をいとなむ遊牧民からすればネズミなんて小動物のひとつにすぎない。


「ええ~こんな所でキャンプするのやだ~」

「……まあ野ざらしよりマシだと思うしかないわね。

 このホールだけでも掃除しなきゃだけど」


 女性二人もこのキャンプ予定地にはなはだだご不満のようだ。

 しかしここがダメとすると野宿か、さもなくばモンスターの出る洞窟どうくつしかない。

 四人はあきらめてこの廃墟に荷物をおろした。

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