第38話 お手軽簡単、イーグルキャンセル

 次の日。

 四人は予定通りクリスタルレイクに到着。

 現地の漁師さんに依頼いらいして湖上に出る。


 すると例によって例のごとく、モンスターたちが次々と襲いかかってきた。


「イーグル、キャンセル、斬りー!」


 ズバァッ!


 リーフの剣が魚型のモンスターを一刀両断する。

 もうこれで10匹目くらいか。

 新しい剣技を会得えとくした彼女は、本人もビックリしてしまうくらいに強くなっていた。


「わー! すっごーい! アイシラちゃん、これすっごーく強ーい!」

「そうでしょ」


 船に近づいてくる巨大水鳥を槍で追い払いながら、アイシラも笑顔で答える。


「お手軽最強! それが《イーグルキャンセル》よ」

「うん!」

 

 クリスタルレイクに到着してすぐ、リーフは新たな剣技をひらめいた。

 初級剣技《イーグルスラッシュ》。

 猛禽もうきんるいのように素早い動きで斬撃を食らわせるという技だ。

 ただ単に一番早く攻撃できるというだけの技なのだが、この技をつかった非常に有名なバグ技があった。

 それが《イーグルキャンセル》である。

 効果は『誰よりも早く、どんな行動でもできる』という超便利技。

 

 やり方は簡単。


1、剣技「イーグルスラッシュ」を選択する。

2、キャンセルボタンを押して無かったことにする。

3、本当にやりたい行動を選択する。


 これだけだ。 

 技を選択した時点でキャラクターの行動順は最上位にあがり、キャンセルしてもその効果は消えないというバグを利用したこの技術。

 死にかけている味方を治療ちりょうする時などに使うと効果抜群ばつぐんである。

 単純に攻撃する時に多用しても強い。敵に反撃するヒマも与えず倒すことができる。


 実戦で多用しているとだんだん面倒くさくなってきて、ここぞという時にしかやらなくなるものだが、リーフはとても気に入った様子だった。


「速い速いはやーい! 私だけ時間を早送りしてるみたい!」


 襲いかかる淡水ザメを一刀両断。

 次に飛んできた水鳥は弓で射落とす。

 ベルトルトを狙う悪い半魚人は湖へ蹴落としてやった。

 群がる敵をほとんどリーフ一人で退治してしまう。

 もとから高い攻撃力にチートの速さが加わって、とんでもない強さだ。

 

「これくらいにしておかないと敵のランクが上がっちゃうわ。

 早いとこ島に行っちゃいましょう」


 アイシラは漁師のおじさんに急ぐようお願いして、船とおじさんを守りながら湖上を進ませた。

 さいわい水中の敵はまだまだランクが低い。問題なく船は進む。


 しかし。


「姉さん、やっぱり見られているよ」


 タカキが沿岸部をにらみながら伝えてくる。

 木々の隙間すきまからこちらの様子をうかがう集団の姿が見えた。


「敵の目的は島のお宝。俺たちが苦労して手にいれたところを横からうばってやろう……とかそんな作戦な気がする」

「たしかにそんな感じがするわね」


 相手がこちらの目的を正確に知っているのかどうかは不明だ。

 しかしアイシラたちが探しに来た「水のアクアマリン」は世界に一つしかない秘宝である。それだけで奪いあう理由にはなりそうだ。


 まして敵の黒幕が帝国貴族の場合、同じく貴族であるベルトルトに手柄てがらを立てさせないという二つ目の目的も追加されることとなる。

 今日のミッションはどうやら簡単には終わらせてくれなさそうだ。


旦那だんながたァ。見えてきましたぜェ!」


 漁師のおじさんが大声でわめく。

 目的の小島にもうすぐ到着だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る