第30話 猟奇的なプリティーガール

「この店はガキが来るような場所じゃねえんだよなあ!

 それともなにか、おれたちがお嬢ちゃんを大人の女にしてやろうかあ~?」


 背筋に寒気がはしった。

 こんな下品な冗談のなにが面白いのか、酔っぱらいたちはヒャッヒャッヒャー! と一斉に笑いだす。


 ガタッ!


 タカキが喧嘩けんかごしで立ち上がる。アイシラは腕をつかんでそれを止めた。


「姉さん」

「いいから、帰ろう」

「なんだよ、文句があるなら言ってみろよ、あ?」


 HP1ケタのアホがまだ言ってくるので、アイシラも内心ムカムカしながら弟をなだめなくてはいけない。


「あたしは大丈夫よ。

 今あんたはきっと「このクソ野郎両手両足を切断して、そしてなぜか治療して便所でってやる」とか、「つぶしてハンバーグにしたあとで実の父親に食わせてやる」とか考えているんでしょうけど、あたしは平気だから大丈夫よ」

「いやそんなこと全然考えてないけど!?」

「えっ? じゃあ「頭蓋骨ずがいこつを横に切断して、それを器にしてフルーツジュース飲んでやろう」とか思ってる?」

「思ってないよ! どっからわいてくんの、そのヤバすぎる妄想もうそう!?」


 歴史系ユーチューバーの紹介動画で上げていたものである。

 大変にセンシティブな内容だったので、おそらくすべて削除されていると思うが。


「お、おいあんまりなめたこと言ってんじゃねえぞ」


 ちょっと引き気味のHP1ケタ。しかし意地になっているのか悪口雑言をやめない。


「よしじゃあ「串刺し公」くらいにしておこうか。ヨーロッパ風のほうがこの街にも馴染なじむと思うし」


 いつの間にかアイシラのほうが積極的になっている。

 やはりこっちのほうが弟よりも危険だ。


「て、てめえ、マジでやる気か、コラア!?」


 HP1ケタはすでにビビりはじめている。

 二人から放たれている強者のオーラがそんじょそこらの少年少女とは比較ひかくにならないと、今さらながら気づいてしまったようだ。


 ガタッ、ガタガタッ!


 冗談ではすまない気配を感じとって、他の酔っぱらいたちも立ち上がる。

 一触いっしょく即発そくはつの危険な空気の中、一人の女性の声が双方のあいだを割って入ってきた。


「も、もうやめませんかみなさん、お店の人も、他のお客さんたちも困ってます……!」


 弱々しい女が、それでも勇気をふりしぼって仲裁ちゅうさいに入った。そんな口調。

 どんな弱い女だろうと関係者一同が視線をうつすと、そこには意外にも女子プロレスラーみたいな大女が。


 筋骨きんこつ隆々りゅうりゅう、身長も180センチはある。

 金髪のくせっ毛が逆立つように天にむかってのびていた。

 見るからに屈強そのものの女戦士……のはず。

 しかし彼女は左右の拳を自分のアゴによせ、プルプルふるえながら涙目でうったえかけてきた。


「ぼ、暴力はいけませ~ん。話し合いましょ~」


 筋肉ムキムキの弱虫。

 突然あらわれた妙なキャラに、場の空気は一変した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る