第27話 やり過ぎな稽古(槍だけに)

 二人は宿をとり、裏庭でさっそく槍のお稽古けいこをはじめた。

 目標は二つ目の技《ダブルインパクト》の習得である。

 文字どおりの二段突き。ダメージも二倍。

 低コストで連発可能なため、使いやすさはピカイチな技だ。


「ヤッ!」

「ハアッ!」


 ガキィン!!


 刃と刃がぶつかり合い、耳に刺さるような金属音が鳴り響く。


「ち、ちょっと姉さん手加減した方がよくない?」

「それじゃレベル上がんないでしょ!」


 アイシラはかなり強い力を入れてタカキに突きや打ち込みをくり出している。

 相手をさせられるタカキも、やむを得ず武器をつかむ手に強い力をこめなくてはいけなかった。

 もちろん殺し合いをしているつもりはない。

 だが本物を使った訓練であるため、実戦さながらの怖さがあった。


「でやあー!」


 大上段に振り上げたアイシラの一撃が、タカキの脳天にせまる。

 タカキは槍で正面から受け止めた。


 ガシャアン!!


「ぐっ……!」


 止めはしたがこしに痛みが走る。今ので骨や筋肉を痛めてしまったようだ。

 バカ正直に受け止めてはいけない攻撃だったらしい。


「ウオオオッ!」


 痛みにこらえながら力まかせに振りまわし、アイシラの軽い身体を押し返そうとしたタカキ。

 しかしそこで思わぬ事故が起こった。


 振りまわした槍の切っ先が、よりにもよってアイシラの顔面を斬り裂いたのである。


「アッ!!」


 空中で悲鳴をあげ、顔を苦痛にゆがめる彼女。

 タカキは大切な姉の顔に鮮血の赤いラインがはしるのを見た。

 アイシラは多少よろめきながら地面に着地し、その場にうずくまる。


「姉さん!」


 とんでもないことをしてしまった! と絶望的な表情で駆け寄るタカキ。

 しかしほんの数秒後、アイシラは何事もなかったかのように立ち上がる。


「ふー、ビックリした」

「ね、姉さん、傷は?」

「ん?」


 ガタガタ全身をふるわせながら姉の顔を見る弟。

 しかし美しい姉の顔には、なぜか傷ひとつ無かった。

 まちがいなくタカキの槍はアイシラの顔面を大きく斬ったのに。

 傷口が血を噴く瞬間を、まちがいなくこの目で見たのに。


 アイシラはケロッとした顔で弟の疑問に答えた。


「もう治したわよ、魔法で」


 あっさりそう言いはなつ姉の手のひらに水の魔力が集まっているのを見て、タカキはアッと声をあげた。

 おぼえたての回復魔法「みずのいやし」。

 特別すぐれた魔法なのだと、さんざんアピールしていたっけ。


「あんたもやってみてよ。さっきの結構ダメージいってたでしょ」


 言われてみて、タカキはズキッ! とした腰の痛みを思い出す。

 女の顔に傷をつけたショックで忘れていたが、彼もそこそこダメージを受けていたのだ。


「あ、う、うん……」


 ちょっと半信半疑な気持ちながら、タカキも生まれてはじめて魔法を使用してみることにした。

 アイシラに強要されて同じ「みずのいやし」を購入させられていたのだ。

 うまく説明できない感覚だが、自分にも同じことができるという印象はあった。


《みずのいやし》!


 フワッと水の魔力が全身を包み、そして痛みがうそのように消えた。


「……なんか変な夢でも見ているような気分だよ」


 効き目がすごすぎて、肉体が新品に生まれ変わったかのような錯覚さっかくすら抱く。

 これが初級にして最優秀の回復魔法「みずのいやし」。


 他の属性にも回復魔法はあるが、回復量が少なかったり高額だったりと不満点は数えたらキリがない。

 イメージを重視しないプレイスタイルならば、選択肢は他にないのである。

 そしてアイシラはとことん効率重視のプレイヤーであった。


 彼女本来の才能は土魔法が得意なのに水魔法に手を出し、小剣類が得意なのに槍をにぎりしめている。


「あたしが覚えろって言った意味、わかったでしょ?」

「まあ、うん」


 大人を圧倒するような格闘術にくわえ、人知を超越した回復魔法まで手にいれたタカキ。

 しかも姉の口ぶりではこんな強さは、まだまだじょくちだという。

 自分の将来はいったいどうなってしまうのか?

 軽い恐怖心を抱いてしまうタカキであった。

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