第25話 ハグしてお別れ、ガチ勢とエンジョイ勢

 何はともあれイベントクリアである。

 3人は帝都クリスタルパレスへと招待され、歓迎かんげいされた。

 お城で一泊させてもらって、翌日よくじつお呼びがかかる。


「昨日の件について、褒美ほうびをとらせる。何がよい?」


 玉座ぎょくざの間へ呼び出された3人は皇帝から直々じきじきにそう問われた。

 選択肢は3つ。


1、武器

2、防具

3、金 

 

「お金でお願いします」


 アイシラは即答した。

 イベント発生前から決めていたことである。

 なにせ武器も防具も店で買える中級のアイテムを渡されるのだ。

 だったら使いみちを自分で選べるぶん、お金のほうがお得感がある。


「よかろう」


 というわけでアイシラたちは一人1000ゴールドずつ下賜かしされた。

 そして何より重要なのは、皇帝・カール二世陛下とコネクションをきずけたことである。

 今後帝都関連のイベントを発生させていくために、この関係は欠かせない。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 玉座の間を出た3人。

 とりあえず発生中の強制イベントはなく、自由の身となれた。


「んーっ」


 アイシラは背伸びをしながらベラドンナに問う。


「ベラはこれからどうするの?」


 予定が無いならこのまま一緒にパーティを組まないか――。

 そう伝えるつもりだったが、言う前に断られた。


「わたしははぐれた一座いちざを探して、また旅に出るわ。

 せっかくのゲームだし楽しまないとね」


 ベラドンナは旅の踊り子という設定だ。

 旅芸人一座の仲間たちのもとへ帰るのだと、そういうことらしい。


 ……考えすぎかもしれないが、「あなたとはゲームのプレイスタイルが違う」と遠回しに言われたような気もした。


 アイシラはこのゲームを知りすぎているがゆえに、しかも全キャラクター中最低の能力値からスタートしているがゆえに、もっとも効率よく強くなることを重視している。

 迷いもなく無敵無双の皇帝を援護したり、何がもらえるのか確認もせずに金を選んだのがその証拠しょうこだ。


 普通なら褒美に何がもらえるのか見せてもらい、そして悩んだすえに決めるものだろう。

 いきなり「金!」と即決されるのは正直しらける。

 初プレイのドキドキ感を楽しみたいというベラドンナとは、たしかに合わない考え方だった。

 最強のプレイが最高のプレイとはかぎらない。それがゲームを楽しむということだ。


「そっか。それじゃあバイバイだね」

「ええ。また何かあったらよろしくね」


 こればっかりは仕方がない。

 アイシラとベラドンナはハグをして、笑顔でお別れをした。

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