第24話 幻影舞踏

 さてもう一人のプレイヤー、ベラドンナ・リリーである。

 彼女は大胆だいたんに敵中へおどり込み、優雅ゆうがな戦いぶりを見せた。

 彼女は愛用の細剣「エストック」のさきをクルクルと回しながら、一人ステップを踏みはじめる。


 回避力上昇スキル《バタフライダンス》!


 ベラドンナの胸で神の宝珠「幻のアメジスト」があやしく輝きはじめる。

 すると彼女の妖艶ようえんな肉体がまるできりでも立ちこめたかのようにうすぼやけてきた。


「お、おお……?」


 男たちは舞い踊る美女に見惚みとれそうになりながらも手に持つ凶器でおそいかかる。

 しかし男たちの刃はことごとく空を切った。


 MISS! MISS! MISS!


「ど、どうなってんだこりゃ!?」


 ちゃんと狙っているつもりなのにまったく当たらない。

 なにをやってもヒラリヒラリと舞って回避されてしまう。

 見た感じは本当にただ踊っているだけで、まったく戦闘的な様子ではないというのに。


「この!」


 ごろつきグループの中でも一番強そうな男が、ようやくベラドンナの実体めがけて武器をむける。

 しかしそれも彼女のエストックによってかろやかにはじかれてしまった。


《パリィ》!


 キィンと小気味よい音をたて、男の攻撃はあらぬ方向へ流されてしまう。

 そしてすきだらけになった背中にベラドンナの逆襲が突き刺さった。


《ピアッシング》!


 ヒュッ、と小さな音が空間を斬り裂く。

 するどい切っ先が男の右肩をつらぬいた。

 たまらず男はうずくまり、武器を落としてしまう。


 まだまだベラドンナをかこむ「客」は多いが、みんなそろって同じような結果に終わった。



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「ヒュウ♪」


 一連の戦いぶりを見ていたアイシラは口笛を鳴らした。

 あのベラドンナ、自分とはぜんぜん考え方が違うけれどもなかなかの強さである。

 いわば「回避能力超特化」スタイル。

「幻のアメジスト」の効果をよく理解し活用できていた。


 あの宝珠は装備者の物理回避力と魔法抵抗力をあげる効果がある。

 ベラドンナはさらに一般の防御スキルを併用へいようし、脅威的な回避力を実現している様子だった。


「やるもんだわー」


 のんきにつぶやきながらアイシラはハルバードを振りまわし、目の前の男をなぐりたおした。

 初使用なので熟練度はもちろんゼロ。

 ただ単に突いたり振りまわしたりするだけである。


 皇帝のような凄味すごみもなければ、ベラドンナのような優雅さもない。

 だがそれでもアイシラはケロリとしたものだった。


 強い武器、強いスキル、強い戦法。

 順番にそれだけ身につけていけば良いじゃんと、アイシラは考える。

 見た目の派手さとか格好良さなんてオマケだ。

 もっといえば雑味と非効率である。


 最強とは、最善をつきつめた先にある。

 そうアイシラは考えていた。

 ……そんな色気も面白味もない考え方だから彼女の動画は視聴回数がのびないのだが。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 はじまる前からわかっていたことだが、戦いは一方的な勝利に終わった。

 皇帝とベラドンナは無傷。

 アイシラとタカキもかすり傷ていどである。


「い、命だけは、助けてください陛下!」


 みっともなく床に尻もちをつき、命乞いのちごいをする悪者・エドムン。


 どうするかね? という視線をむけてくる皇帝に対し、アイシラは予定通り助命を申し出た。


「本人がこう言っていることですし、命は許してあげましょう」

「お主はそれでよいのか?」


 ええ、と言ってアイシラは面白くもなさそうな表情になる。


「この人の今後こんごって、むしろ死んでおけば良かったって思うような人生でしょうし」

「なるほど」


 納得した顔で皇帝は剣をおさめた。


 人身売買禁止法違反。

 奴隷廃止法違反。

 監禁罪。

 姦通かんつう罪。

 婦女暴行罪。

 たたけばまだまだ余罪は出てくるだろう。


 いかに貴族とはいえこれだけ罪を重ねれば厳罰はまぬがれない。

 貴族用の牢獄ろうごくに一生閉じ込められて、やがて病死か発狂という最期をむかえることとなろう。

 それはアイシラの言うとおり死ぬよりつらい人生なのではないだろうか。

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