第20話 アゴアエウーアイアゲウ

 あとは道具屋で回復アイテムなどを買い足して、いよいよ次のイベントを起こしに宿屋へむかう。


 これから宿屋で一泊し、誘拐ゆうかいされてやらなくてはいけない。

 おかしな話だが、そうしないとストーリーが進まないのだ。



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 安っぽい二人部屋を確保したアイシラとタカキ。

 アイシラはベッドの上であぐらをかいて、のんびりとした顔で物騒ぶっそうなことを語りはじめた。


「さて、これからあたしたちは誘拐ゆうかいされることになります。

 抵抗してもムダなので大人しくつれていかれましょう。

 どうせすぐに正義の味方が助けに来てくれます。

 とってもえらい人だから、お行儀ぎょうぎよくしてね」

「……どっからツッコミ入れればいいのそれ」


 タカキもベッドの上に腰かけ、姉の不可解なセリフにとまどっていた。


「危ないなら今、逃げればいいじゃん」

「だってそうしないと話が進まないんだもん」


 助けに来る正義の味方、とはなんと隣国の皇帝・カール二世陛下その人である。

 時代劇の『暴れ〇〇将軍』よろしく颯爽さっそうと登場した彼は敵をバッタバッタと斬り倒し、アイシラたち被害女性を助けてくれるのだ。


 その縁でアイシラは皇帝陛下が治める帝都『クリスタルパレス』に行くこととなる。

 イベントクリア後は行動できる範囲がグーンと広がるので、それからは帝国イベントを攻略していくも良し、その他地域に足をのばして旅を楽しむも良しの、自由行動フリーシナリオとなっていく。


「歩く手間がはぶけると思ってさ、気楽に誘拐ゆうかいされちゃおうよ。

『謎すぎる秘密結社(笑)』がどうやってあたしたちを捕まえるのか、ドキドキしちゃうなあ~」

「まったくお気楽なんだから……」


 タカキはそう言って腕を組み、そのまま座りつづける。

 どうやらずのばんでもするもりらしい。

 自分を心配してくれる弟の姿が可愛くて、アイシラはクスッと笑った。


「おやすみ~」


 そう言ってアイシラは薄っぺらい毛布をかぶり、横向きに寝る。



 ――次の瞬間。アイシラとタカキは冷たい床の上に寝そべっていた。


「フガ?」


 口を動かすアイシラ。だがうまくしゃべれない。

 いつの間にか猿轡さるぐつわで口をふさがれていた。


「モゴ!?」


 身体も動かない。ロープで身体がグルグル巻きになっていた。


「フゴォー!?(うそぉー!?)」


 グルグル巻きのイモムシ状態で横にころがるアイシラ。

 すぐ目の前に同じ状態のタカキがいた。


「ホンガッゲンゴ!?(どうなってんの!?)」

「ハガンガーヨ!(わかんないよ!)」


 アイシラは宿屋のベッドで横になった。だがまだ眠ってなどいなかった。

 タカキに関してはベッドに座ったままだった、寝そべってすらいない。

 それなのに二人はいつの間にか拘束こうそくされ、別の部屋にころがされている。

 いったいどんな手品を使った。いやまあレトロゲームにありがちな手抜き演出なんですけど。


「ホガーイ!(こわーい!)」

「ホンガギアーアーエアン、ホゲ!?(本当に大丈夫なのこれ!?)」

「ハガンガーイ!(わかんなーい!)」


 やばい。ビックリにもほどがある。

「謎すぎる秘密結社(笑)」の能力はハンパない。甘く見すぎていた。

 残念なのはこの「謎すぎる秘密結社(笑)」、二度と世界に姿を見せないことだ(笑)。

 

「ゴイグガガガギンゴガオゲガギーゴギ(こいつらが邪神を倒せばいいのに)」

「ゴンガゴゴギッガゲゴーガガイガン(そんなこと言ったってしょうがないじゃん)」


「ねえ、なんでアンタらそれで会話が成り立つの……?」


 イモムシ状態で会話をつづける二人の上から、若い女の声がした。

 紫色のなんともド派手な髪の毛をした、グラマラスな女が二人を見下ろしている。


「ア、アンガハ!(あ、あんたは!)」


 ひと目見てわかった。

 この女は、8人いる主人公キャラの一人だ!


「エアオンガ・ギギー! ホガゴゴゴギグゲゲギゲガンガガゲ!

 ガガギガギゲガガギア……」

「いやいやいやいや、なに言ってるか全然わかんないから」


 女はアイシラの猿轡さるぐつわをはずしてくれた。

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