第19話 まずは装備をととのえよう

 見事に「土のトパーズ」を持ち帰った二人を、村のみんなは大いに祝福してくれた。

 その夜はささやかな送別パーティが開かれ、出発は翌朝よくあさ


『旅立つ二人に大地母神の祝福よあれ!』


 と、村のみんなから大声で祝福された。

 部族みんなの声援を背中に受けながら、二人は念願の旅に出る。



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 まずは大草原のはずれに存在する一番近い街、ウルンに到着した。

 この街くらいだと文化的に共通点も多いため、まだ冒険の旅という印象はない。


「どうする姉さん、とりあえず宿でもとる?」

「あ、宿は最後。イベント始まっちゃうから」

「はあ?」

「あ、いやこっちの話」


 今の状態で宿屋を使うと、「悲劇のヒロインアイシラちゃん 第二話」がはじまる。

 具体的には宿屋の主人が人身売買組織の一員で、なんと寝ているあいだに誘拐ゆうかいされてしまうのだ。

 全世界どこの宿屋で泊まってもこのイベントは発生する。

 そのくせこの事件以外ではまったく姿を見せないので、プレイヤーたちの間では「謎すぎる秘密結社(笑)の犯行」と呼ばれ、皮肉ひにくられている。

 

 本来のストーリーだとアイシラは身寄りを無くして一人ぼっち。

 孤独こどくな美少女なんて絶好の餌食えじきというわけで、悪い貴族のもとに売り飛ばされてしまうのである。

 まあ危ないところを正義の味方がやって来て助かるのだが、その解説は別の機会に。

 

「それよりまず武器と防具よ、お金は結構手に入ったし装備を整えないと」


 砂漠の地下ダンジョンでウンザリするほど戦ったから、お金はけっこう貯まっている。

 なぜモンスターが人間のお金なんか持っているんだって? それは言わないお約束だ。


「えー、俺は別に素手でいいよ」

「そんなこと言わないで、ホラホラ」


 妙にいやがるタカキの背を押して、アイシラは武器屋に直行する。



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「おー、良いのあるじゃん!」


 かわいらしい美少女ヒロインがそう言って笑顔で手に取ったのは、なぜかデカくてゴッツイやりだった。

 名は「ハルバード」。下から二番目の低ランク槍である。


「これ二本くださーい♪」


 ウッキウキの笑顔で店員に話しかける姉を、タカキは心底いやそうな顔で止めた。


「いや俺はいらないって言ったじゃん」

「なんでよ」


 タカキは不満顔でこぶしを握りしめ、横を向いてしまう。


「俺はこの拳で強くなるんだよ」


(面倒くさ、男はこれだから……)


 アイシラは内心で毒づいた。

 これはゲームである。そんなポリシーなど通用する世界ではない。

 格闘技は残念ながら初級装備に分類されている。それがこのゲームの現実なのだ。

 使い物になるのはせいぜい中盤から後半までで、終盤には攻撃力不足で苦しむ結果となる。


 だから武器は定期的に変えていくべきなのだ。

 そういう点においてこの「ハルバード」は理想的な中継なかつやくだった。


 まず安い。

 そしてリーチが長いので離れた間合いから一方的に攻撃できる。

 おまけに早い段階でコスパの良い便利な技までおぼえる。


 完璧じゃないか。


「それなら姉さんが使えばいいだろ」


 いつになくガンコなこだわりを見せる弟。

 姉は内心イライラしつつ笑顔でなだめようとこころみた。


「でもでも~ぉ、そろそろタカキの格闘技って限界マックスまで育っちゃうと思うよ~?

 タカキはいっつも一生懸命がんばっているから~」

「…………」


 これは事実だ。タカキも実感していることだろう。

 熟練度がMAXになればもうその上はない。

 あとは「力」ステータスを上げることでしか強くできないが、それは槍を使っていても上がるステータスだった。


「こういうのって総合武術っていうのかな。

 素手でも強くて武器も使えるなんて、カッコイイと思うなあ~」


 フーッ。


 タカキは大きくため息をつくと、無言で新品の槍を受け取った。

 けれどまだ納得していないようだ。

 後でどうにかしないと、と思うアイシラであった。

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