第18話 猛追してくる地竜から逃げろ!

 WARNING!WARNING!WARNING!WARNING!


          地竜登場!


 WARNING!WARNING!WARNING!WARNING!



 脳内画面に流れ始めるボス戦闘のBGM。

 グラフィックもザコ敵なんか比較ひかくにならないほど巨大で恐ろしいドラゴンの姿だ。

 この神ゲーを作った制作チームの本気度がよく伝わってくる。


 そして現実リアル目線では、巨大な牙が今まさにアイシラの小柄こがらな体をくだこうとしていた。

 視界を埋めつくす巨大なあぎと

 牙の一本一本がアイシラの身体とおなじくらい大きい。

 なにもかも分かっていたはずなのに、恐怖で身がすくんで動けなかった。


「姉さん!」


 間一髪。

 ロープでガッチリしばられていたアイシラの身体は勢いよく後ろに引っ張られ、高々と宙を飛ぶ。

 地竜は勢いあまって頭から祭壇さいだんに突っ込み、神々しい舞台をあっけなく粉砕してしまった。


「ヒイイイイイイ!!」


 とても我慢できずアイシラは絶叫した。

 ほんの数秒前まで立っていた場所が一瞬で粉々こなごなである。

 この巨大なバケモノを倒せば「ガイアのつるぎ」という最強武器のひとつが手に入るのだが……。


「無理無理無理無理ぜったいムリー!!」


 こんなでっかいドラゴンを倒すなんて人間技じゃない。

 いつかは倒せるというのも実はウソなんじゃないかとさえ思えた。


 絶叫しながら地面めがけて落下していくアイシラの身体。

 激突寸前にタカキがジャンプし、空中で受け止めた。


「大丈夫姉さん?」

「だ、大丈夫、生きてる、生きてるよねあたし?」


 アイシラはガタガタふるえながら自分の身体をなでる。

 さいわいかすり傷一つない。


「さあ逃げよう」


 タカキが言いながら手刀でロープを切断する。

 祭壇があった場所では、地竜がふたたび身を起こしてアイシラのことをにらんでいた。 


「うひいいぃぃぃ!!」


 地獄の鬼ごっこがはじまった。

 地竜が一歩走るたび、鍾乳洞しょうにゅうどうが地震のようにグワングワンとれる。

 長い地底暮らしのためか翼は成長が途中で止まっており、歩くのもさほど得意とは言えぬようだがそれでも見上げるような巨体である。

 人間よりはよっぽど動きが速い。


「ど、どどどどうしよう~!」


 このままでは追いつかれる。

 アイシラは泣きべそをかきながらあたりを見回した。

 しかしいくら見たところで鍾乳洞しかない。


「ええーい、一か八かーっ!」


 アイシラは安易な思い付きを即、実行した。


《ストーンショット》!


 天井にむけて貧弱ひんじゃくな石弾をはなつ。

 石弾は天井の鍾乳石を根元から破壊し、地竜の背中に落とした。


 ゴシャッ。


 運よく命中。だが大したダメージにはなっていない。


「だったら俺も!」


 タカキもヤケクソとばかりに跳びあがり、技をつかった。


《しんくうは》!


 鋭い空中回し蹴りから発生した真空の刃が鍾乳石を次々と切断していく。

 今度は豪雨のような激しさで地竜に降り注いだ。


 ドドドドオォォォ……!


「グオオオオン!」


 全身に激しい衝撃をうけて、地竜はたまらず足を止めた。

 人間のように頭を左右に振って意識を確認している。


「あ、効いた! ちょっと効いてるかも!」

「今のうちに急ごう!」


 時間をかせいだといっても、ほんのわずかである。

 二人とも必死の形相ぎょうそうで来た道をひき返し、なんとか鍾乳洞の入り口に飛び込んだ。

 その直後。


 ドッスウゥゥゥン……!!


 地竜の巨体が入り口に激突し、ガラガラと音をたてて崩壊させる。

 出入り口は瓦礫がれきに埋もれてしまった。


 ゼエ……ゼエ……。


 二人とも呼吸が限界でしばらく言葉もない。

 不安だったのでさらに奥へと少し歩き、ようやく二人は座り込んだ。


「な、なんとかなった、ね……」

「ハア……ハア……。あれは倒せねーわ」



 ギャオオオオオオオオン!!!!



 地竜が瓦礫がれきのむこう側で怒りの雄叫おたけびをあげている。

 まだ敵は諦めていないらしい。

 やばいやばい。

 とっととずらかろう。


 二人は疲れ切った身体にむちを打って帰り道をいそぐ。


「ねえ姉さん」

「なによ」


 帰り専用の移動装置である「砂のウオータースライダー」の前で、タカキが下らないことを言いはじめた。


「あいつってさ、あーんなでっかい体でどうやってこんなに深くまで入って来れたんだろう」

「……逆じゃないかな」

「逆?」

「タマゴからかえった時はもっと小さい体だったと思うのよ。

 それがエサ食べまくってドンドン大きくなっていった結果、あんな巨体になって出られなくなっちゃったんじゃないかな?」

「……アホらしい」


 この推理が正しいかどうか。

 それは確認のしようがない。


 二人は「砂のウオータースライダー」に飛び込んで、無事に脱出をはたしたのだった。

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