第15話 古代人の洞窟

「ぶえっ、ぺっ、ぺっ!

 口の中に砂はいった!」


 ヒロインがしてはいけないような表情をしながら、アイシラは口の中の砂を吐いた。

 流砂の中に突撃したせいで、全身いたるところ砂まみれである。


「水浴びしたのムダになっちゃったよ……」


 流砂というものを初めて体験したわけだが、まさに「流れる砂」という文字そのもの。

 大量の砂に身体が飲み込まれ、じわじわと埋もれていくのはかなりのホラー体験であった。

 これがゲームのイベントシーンであると知らなければ、死の恐怖におびえ発狂していたかもしれない。


 とにかく窒息ちっそくしないよう大きく息を吸って地の底へ飲み込まれていったアイシラとタカキ。

 しかし意外とあっけなく濁流だくりゅうのようだった砂から解放され、目的の地下洞窟どうくつへたどりつけた。


「うわあ……どうやって帰るのこれ?」


 タカキも両手で全身の砂をはらいつつ、自分たちがやって来た場所を見上げる。

 天井までは十数メートルはあるかという高さ。

 そこにぽっかり大きな穴があいている。

 穴から大量の砂がたきのように降りそそいでいた。


 砂の滝をおよいでさかのぼる、なんてことは絶対に不可能だろう。

 ここから引き返すことはできない。


「大丈夫よ、ぺっ!」


 砂を吐きながらアイシラは答える。


「出口は他にあるから」

「……なんでそんなこと知ってんの?」


 ギクッ。

 アイシラは一瞬返答にこまった。


「そ、それはほら! 

 この洞窟ってあたしらの部族が秘宝を隠すための場所でしょ。

 出口が他に無きゃおかしいじゃない」

「ああ、それもそうだね」


 ふーっ。

 うまくごまかせてアイシラは安堵あんどのため息。


 この世界がゲームなのだと。

 自分は何度もクリアしたことがあるから色々知っているのだと。

 それをうまく説明する方法が思いつかない。


 なにせタカキは得体えたいのしれないバグで使用キャラクター化した存在なので、へたなことを言うと何がおこるかわからないのだ。

 もしかしたら存在そのものが消滅する危険まであるので、情報開示は慎重におこなう必要があった。


「あっ、ほら、階段があるよ!

 やっぱりここって作られた場所なのよ!」


 下へ降りていく階段を発見した。

 どうやら天然の岩盤をけずってひとつひとつ段差を作っていったものらしい。

 

 タカキはそれを見て感嘆かんたんのため息をつく。


「うわあー。

 これ作るのめちゃくちゃ大変だったんじゃないの?

 ご先祖様すごいなあ」

「それだけ「土のトパーズ」が重要なアイテムなのよ」


 神が人類に作り与えし宝珠のひとつ、「土のトパーズ」。

 ゲーム的には首につける装備で、「風」属性の攻撃を完全無効化する。防御力は1。

 純粋にゲーム脳で考えると「便利だが無くてもクリアできるアイテム」にすぎない。


 だが宗教的な意味を考えると極めて重要な存在であることは疑いようもない。

 はるか古代の先祖がトパーズを守るために、ここまでの苦労をしたのだから。


「行くよタカキ。

 モンスターには気をつけようね」

「うん」


 二人は先祖がきずき上げた階段を一歩一歩みしめつつ、下層へと進む。

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