第11話 イベント終了、のはずが……

 勝った。

 余裕よゆうの大勝利である。


 本来のストーリーならギリギリなんとか勝てるかどうか、というレベルの戦闘イベント。

 そのためか勝利してもアイシラは倒れてしまい、結局村は崩壊ほうかいする。


 だがバグ技を使ってきたえまくっていたこのアイシラはピンピンしている。気絶の心配は一切ない。

 本当の意味での勝利だ。

 ストーリーという名の運命は書きえられた。


「さあボスはブッ倒したわよ!

 あんた達はどうすんの!」


 アイシラは腰に手をあて、ふんぞり返ったポーズで残りのオーガたちに言いはなつ。

 リーダーを失ったいまれを指揮する者はいないようで、弱気な顔でオロオロしはじめた。


「グ、グウウ……」

「やる気がないなら出ていきなさい!

 二度と来るんじゃないわよ!」


 体格はオーガのほうが二倍くらい大きい。

 だがそれでもオーガたちはアイシラにおびえ、すごすごと帰りはじめた。


(よし、問題なく終わりそうね)


 アイシラも内心ではホッと一安心である。

 負けないとはいえ敵の数は多く、最期まで暴れられたら村の損害は増大してしまう。

 

 逃げ帰るモンスターの背中を油断なく見つめながら、夜明けまでもう少し眠れるかしら……などと考えはじめていた。

 そんな時だった。


『あれっ、もうイベント終わっちゃってんじゃーん?』


 頭上から、突然だった。

 複数の巨大な声が降りそそぐ。


 夜空を見上げればそこには巨大なモンスターのシルエットが数体。


『だーから早く行こうって言ったのに』

『別にいいじゃありませんの、アイちゃんが起きているんだから同じことですわ』

『まあまあ二人ともそのくらいで。こっからはシリアスでお願いしますよ』


 ……なにやら空中で言い合っている。

 声がデカすぎて地上まで丸聞まるぎこえなのだが、聞こえなかったフリしてあげたほうが良いのだろうか。

 それにしても、あんな奴らをアイシラは知らない。


「なに、あれ……」


 目をこらしてよく見てみると、大きな影が三つに小さな影が一つ。

 合計四体。

 

 いずれも見覚えのない姿のモンスターだ。

 なんだあいつらは。

 あんな敵はこのゲームに存在しなかったはずだ。

 こんなイベントは存在しなかったはずだ。


「姉さん、来るよ!」


 緊張感に満ちたタカキの鋭い声が飛ぶ。

 アイシラは現実に引きもどされた。


 何がなんだか分からない。

 分からないが、何もしなければおそらく死ぬ。


 謎のモンスターたちは、地響きを立てながら夜の大地に降り立った。


(お、大きい……!)


 アイシラはひと目見ただけで戦意を喪失そうしつした。

 おそらく体重差は数十倍。ステータスの差も絶望的だろう。

 言葉を話していた以上知能も高い。まず間違いなく魔法やその他、特殊なスキルを持っているはずだ。


 一方アイシラたちはたった二人。

 能力もせいぜい中盤程度の実力だ。


 100%勝てない敵が同時に4体も。


 それが分かるから戦意を喪失してしまった。


「に、逃げるわよタカキ」


 後ずさるアイシラ。

 しかし逃げる事だってはたして可能かどうか。


 後ろへ下がった姉にたいして、しかし弟は前にむかってしまった。


「う、うおおお!」

「タカキ!?」


 アイシラの脳内画面で戦闘がはじまってしまう。



 WARNING!WARNING!WARNING!WARNING!


       ファフニール登場!


 WARNING!WARNING!WARNING!WARNING!


 

 

 邪竜ファフニール。

 やはりこのゲームには登場しない敵だった。

 なぜこんな奴がと考えているヒマもなく、タカキは勇敢ゆうかんに戦いをいどむ。


《りゅうせいキック》!


 青い光に包まれながらの飛び蹴りが邪竜の巨体に炸裂さくれつした。

 いま使える中で最強の技だ。


 この技を弟がひらめいた時、アイシラはあやうく死にかけたものだった。

 だが格上のボス敵に通用するとは……。


『ウギャアー!?』


 意外にもファフニールは悲鳴をあげながらみっともなく倒れた。


「……あれ? けっこう効いた?」


 蹴ったタカキもちょっとビックリだ。


『痛ってえええ! GMこれマジで痛いんですけどおお!?』


 味方に謎のクレームを入れる邪竜。


『当然です。これはゲームだが遊びではない(キリッ)』

『マスターそのセリフあぶないから使っちゃだめ』


 巨大な悪魔のセリフを、これまた巨大な怪鳥が止める。


(あっ、まさかこいつら!)


 そのやり取りを聞いてアイシラはピン! ときた。

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