第12話 4匹のHENTAI
「あ、あんたら! 分かったわアンタたちの正体!」
悪魔と巨大な鳥との会話をつづけようとするアイシラ。
しかし邪竜が起き上がってきて、それどころではなくなってしまった。
『こいつはお返しだぜえええ!』
「いやちょっと待っ……」
正義のロボットみたいなセリフを吐きながら、邪竜は巨大な翼をはばたかせた。
まるで台風のような暴風が姉弟を直撃する!
《ワイルドウイング》!
「キャー!」
風属性の全体攻撃。
たった一撃のことである。
ただ一度の羽ばたきでアイシラたちは吹き飛ばされ、戦闘不能になった。
アイシラたちの後ろにあった建物もすべて破壊されてしまう。
馬や家畜も巻き込まれ、犠牲となった。
『ちょっと、やりすぎじゃありませんの?』
敵の中で一人だけ人間サイズだった女が、邪竜に苦情を言う。
だが邪竜はあまり気にしたふうでもなかった。
『いやー、まあアイちゃん死んでないからいいんじゃね?』
(アイちゃん……。
やっぱりこいつら、あたしの視聴者だ……)
声が出ない。
身体も動かない。
文句を言うこともできなかった。
このゲームに参加していたのは、自分だけではなかったのだ。
あのとき動画を視聴していた人間たちも敵側で参加してきたらしい。
『ああ、まあ仕方ないですか。
一応オッケ―ってことで』
GM、と呼ばれていた大悪魔が倒れたアイシラの前に立った。
たぶんGMとはゲームマスターのことだろう。
このゲーム世界に送り込んだ張本人だ。
『アイちゃんずいぶんノンビリプレイだったんで、忠告に来ました~。
あの~、現在参加中のプレイヤーは、アイちゃんだけじゃ無いんですよ~」
(なん……だと……!)
完全に予想外のひと言だった。
ロールプレイングゲームなんて一人でじっくり楽しむのが普通だ。
プレイヤーが複数いるとなったら一個しかない限定アイテムは早いもの勝ちになってしまう。
なんて面倒くさいことを。
一度でもゲームオーバーになったら現実に戻されてしまう、しかし限定アイテムは早い者勝ち。
つまりプレイヤーは常に危ない橋をわたり続けなくてはいけないという事になる。
『あっでもまだ決定的な差は開いていないんで安心してくださ~い。
アイちゃんこっちでもニートになっちゃったらつまらないから、連絡させてもらいました~』
(やかましいわ)
引きこもりとかニート呼ばわりされることには敏感なアイである。
なぜなら事実だから。
『あらあ? なんだかギャラリーが増えてきてしまいましたわね?』
戦いをやめて
見上げるようなモンスター相手に近づくような命知らずはいないが、恐怖半分、興味半分といった様子。
『ふむ、ではみなさん、アレをやりましょうか』
『アレか?』
『ええー、アレ本当にやるんですかあ?』
『オーッホホホホ、良くってよ!』
(……なにごと?)
アイシラはまだ動けない。
いわゆるHPゼロ、戦闘不能状態なのだ。
こうなると普通の方法では復活できない。
とはいえ敵にとどめを刺す意思はないようなので深刻な事態というわけでは無さそうだが、しかし一体なにを始めるつもりなのか。
『グワハハハハ!』
なぜか突然ファフニールが笑いはじめた。
『あまりに弱すぎて話にならぬわ! 殺すのは次の機会にとっておいてやろう!』
……どうやら悪役らしさを
だが、アイシラの想像をはるかに超越する、すさまじくアホな小芝居であった。
『よく覚えておけ!
オレは魔界三魔将の一人、邪竜ファフニール!
好きなものは《女教師もの》!』
(は? お、女教師?)
ツッコミを入れる間もなく二人目が名乗りをあげる。
『わ、我は同じく三魔将の一人、怪鳥ルフ!
好きなものは《口うるさい幼なじみ》!』
『オーッホッホッホ! 同じく三魔将、魔女王リリスですわ!
好きなものは《おバカな悪役令嬢》!』
次から次へとみずからの
最後にGM、大きな悪魔が中央で胸をはる。
『そして
好きなものは《ミニスカートの男の
シーン……。
誰も何も言わない。言えるわけがない。
へたなことを口走ったら最期、悲惨な死をむかえることになろう。
そんな死にかたは絶対にイヤだ。
『よく
(誰がおぼえるかそんなもん!!!!)
アイシラは心の中で全否定するが、残念なことにまだ
なんとなく受け止めてしまったような空気が流れた。
四匹のHENTAIたちは妙に満足顔で一斉に飛び立ち、夜空のむこうへ消えていく。
(全員落ちて死ねばいいのに)
アイシラは本気でそう思った。
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