第9話 平穏が終わるとき
「それにしても姉さん」
「なに?」
「なんのために、こんな強くなろうとしてんの」
「もうすぐあたしたちは旅に出なきゃいけなくなるのよ。多分ね」
「えっ、誰に言われたの、
「そうじゃないけど……」
うまい言いわけが思いつかない。
まさかこの世界はゲームだなんて言っても理解されないだろうし。
「いつまでもこのままじゃいられないのよ」
「ふーん」
理論上、モンスターと戦わなければゲーム展開は進まない。
このまま遊牧民として
遊牧民は居場所を固定しない。家畜のために大草原を移動してまわる民族である。
必然、モンスターとの戦闘は発生してしまうのだ。
ダラダラと長生きしているうちに出現テーブルが上昇してしまったらさあ大変。
50代とかになってから強敵と
腰痛・肩コリに耐えながら戦う中高年。イヤな生き地獄である。
だから今、この若い時代に、ラスボスである邪神を退治しに行かなくてはいけない。
「さあ~今夜のご飯は何かなあ~。
明日にそなえてしっかり栄養補給しないとね!」
「ここんとこ
元気に笑うアイシラに対し、タカキは気乗りしない様子。
「おれたち馬の世話もしないで毎日ケンカみたいなことばっかりしてるじゃない。
頭がおかしくなったんじゃないかって
「うーん、でも仕方がないのよ。のん気に働いているヒマなんてないの」
だってこの村、もうすぐ
ぼちぼちアイシラたちはフィールドに出て冒険を開始する。
そしてわずか15回だ。
15回モンスターと戦闘をすれば、「故郷壊滅イベント」が発生する。
生き残れるのはアイシラだけ。
パーティメンバーに格上げさせることができたタカキは大丈夫だと思うけど、他の村人は厳しい。
この村は
そうして悲劇のヒロイン・アイシラは行く当てもない旅に出るのだ……。
夕陽をあびて
なんだかんだこの村での生活も一か月くらいになる。
自然と愛着がわいてきてしまった。
だからここの人たちが殺されるシーンを想像すると悲しくなるが、でもしょうがないじゃないか。
「べつに悪いのはあたしじゃないもん……」
「なにか言った?」
「べつに!」
アイシラは心の中にモヤモヤをかかえたまま、第二の我が家に帰る。
もうすぐここでの生活は終わる。
でももう少し。もう少しだけこのまま……。
しかし深夜。
静かな闇夜を切り裂くような悲鳴によって、アイシラは無理やり起こされた。
「モンスターだ! モンスターが村の中に入ってきた!」
「イヤアアア!!」
(えっ!?)
ガバっと勢いよく飛び起きて、
村の入り口
燃え盛る炎が侵入したモンスターたちの影を大きく浮かび上がらせる。
二足歩行で歩く
そして
「なんで……?」
まぎれもなく「故郷壊滅イベント」で登場する敵だった。
「なんでよ! あたしまだ一回も外に出てないじゃん!」
アイシラのゲームプレイはすでにバグまみれで通常のものとは違ってきている。
まさかそのせいなのだろうか。
予想外の奇襲によって戦いの人生は幕をあけた。
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