第7話 未来をつかめ! 奇跡をよぶ腹パン

 ポスッ。


 猫パンチみたいにやわこぶしがおなかに命中する。


「もっと、もっと強くよ!

 お姉ちゃんが『もっと上のステージ』に行けるような拳を打ち込んでごらん!」

「全然意味わかんないよ!?」


 ドンッ。


 今度は胸の中心に拳骨ゲンコツが打ち込まれる。

 そこそこ痛い。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 アイシラ  HP 17/18


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


(よし! ダメージは入る!)


 このゲームのキャラ育成はレベル制ではなく、能力値そのものが少しずつ上がっていくシステムである。

 白兵戦なら肉体系のステータスが、魔法戦なら魔法系のステータスが上がりやすい。

 ちなみに敵から逃げると《敏捷びんしょう》が上がったりもする。


 もし同じことが今この場で可能ならば?

 この弟に適度な手加減をしてもらいつつ、ダメージを与えてもらえるなら?

 安全確実にステータスアップがはかれるではないか。

 それならハードモードであるアイシラのストーリーにも希望が見えてくるのだ。

 

「その調子! ガンガン来て!」

「もう! どうなっても知らないよ本当に!」


 ドン! ゴン! バキッ!


 次々と弟の攻撃がアイシラに命中し、HPがドンドン削られていく。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 アイシラ  HP 8/18


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 

(い、い、いった~いぃ(泣))


 泣きそうなほど痛い。

 明日はたぶん上半身がアザだらけだ。

 だがまだステータスは上がってくれなかった。

 もしかして無駄な努力なのだろうか。


「も、もう今夜はこれくらいにしようか……」


 アイシラは根性なしのヒキニートである。

 HPはまだ残っているのに早くもギブアップ宣言。

 だって痛いんだもん。


 だが。


「ちょっと待って、もう一発だけなぐらせてよ」


 弟の顔つきが変わっていた。


「え、ちょっ」

「なにか……なにかが分かってきた気がする!」



 キュインキュインキュイン!!



 突如とつじょ鳴りひびく謎の効果音、そして弟の全身が光り輝いた!


《ボディブロー》!


 ドゴォッ!!


 強烈な腹パンがアイシラの腹に突き刺さった。


「げふっ……!」


 たまらず地にヒザをつく。

 強烈な苦しみで身体が動かない。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 アイシラ  HP 3/18 スタン状態


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


(こっこいつ、技をひらめきやがった!?

 名前もないモブキャラなのに!?)


《格闘》系初級技、《ボディブロー》。

 半分の確率で相手を行動不可能にする小技である。


(あ、あたしもしかして、バグ技見つけちゃったかな……!?)


 ヒザをついたまま声も出せない姉の姿をみて、弟は血相けっそうをかえてしまう。


「ご、ごめん姉さん大丈夫!? ついやりすぎちゃった!」

「だ、だいじょう、ぶ」


 スタン効果は1ターンだけである。すぐ動けるようになった。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 ステータス


 アイシラ 15歳 女 遊牧民


 HP  4/19 UP!

 MP  1/1

 SP  3/3


 力 1

 体 3 UP!

 器 2

 敏 3

 魔 1

 精 3



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「は、ははは。やった、上がった……!」


 弟に肩を借りて家に戻るアイシラ。

 ボロボロの状態ではあったがしかし彼女の拳はグッ! と強くにぎられ、喜びを表現していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る