第3話 登るしかねえ、この最弱ヒロイン坂をよ……
「な、何がどうなってんの?」
愛はなんとか無事に木から降りた。
すぐそばに小川が流れている。
一本の木と小川以外に見えるのは広い草原。
そして離れた場所に小さな村が見えた。
「日本じゃ、ない……?」
大草原と村の建物を見てすぐにそう思った。
TVや動画で見たことがある。モンゴルとかで使う「ゲル」とかいう組み立て式住居。
あれがいくつも並んでいるのだ。
「服も……、身長もちょっと小さくなった?」
目線がすこし低くなっているようだ。
そして身につけている服はどこかの民族衣装的な
ふと配信中に送られてきたチャットの文章を思いだす。
――本当にゲーム世界に逃避したい?
あの提案は、
「マジで!? あれ本当にマジのマジだったんだ!?」
彼女は本当にゲーム世界に送られてきてしまったのだ!
「ヤバくなーい!?」
愛は近くの小川で自分の姿を確認した。
流れる水面にうつし出されたのは、十代半ば、赤毛の女の子。
「うわー、これアイシラだ!
かーわいー!」
まさしく主人公キャラの一人、
性格も見た目通りかわいらしい女の子。
得意武器は小剣類。
得意魔法は補助メインで中途半端な性能の土魔法。
特徴はとにかく弱いこと……。
「ってちょっと待って、よりにもよってなんでアイシラ!?」
愛は、いやここからは名前をアイシラとしよう。
彼女は非常にイヤな予感がして、能力値を確認したくなった。
すると頭の中に奇妙な感覚が
脳内にゲームパッドのイメージが浮かび上がった。
イメージのゲームパッドを操作し、ステータス画面を表示する。
とても奇妙な感覚だが、頭の中に画面があって、それをアイシラは見ることができた。
左右の眼で見る光景ともまた違う、第三の眼ともいうべき能力だ。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ステータス
アイシラ 15歳 女 遊牧民
HP 18/18
MP 1/1
SP 3/3
力 1
体 2
器 2
敏 3
魔 1
精 3
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「やっぱりそのまんまアイシラだったあああ!」
アイシラは絶叫しながら草原に
作品中、いやシリーズ中もっとも初期能力値の低い究極の最弱キャラ、アイシラ。
このゲームはかなり実験的な要素をふくむ、今でもかなり斬新なシステムで作られたゲームだった。
まぎれもなく名作ではあるのだが、しかし「なんでやねん!」とツッコミを入れたくなるようなシステムやバグがいくつもあるのだ。
いまアイシラが直面しているのは『登場人物の年齢によってステータスの合計値が違う』という人類にはまだ新しすぎるシステム。
このゲームの主人公は8人の中から自由に選ぶことができる。
最年長がクレイマンという旅の剣士で32歳。
最年少がこの遊牧民アイシラで15歳だ。
クレイマンとアイシラでは、初期ステータスの合計値がなんと17も違う。
しかもクレイマンは攻撃力重視の肉体派なので、ゲームの難易度に
そりゃ旅の剣士と普通の女の子では、気力体力どちらも差があるほうが自然だ。
だがそれは現実社会での話だろう。
ゲームキャラなのに総合力がちがうってのはどうなのだ。
開発チームもこれはやり過ぎだったと気づいたらしく、この年齢差システムは2以降は
なので最大にして最悪の被害者がこのシリーズ第一作目の最弱キャラ、アイシラという少女なのだった。
17というステータスの差がどれほどなのかというと、このゲームを愛するやり込みプレイヤー達がわざわざ『アイシラ一人旅! 最弱キャラだけでラスボスを倒す!』という動画を配信するほどだ。
難しいから視聴者に面白そうだと思ってもらえる。
再生数も必然的に上がる。
アイシラとはそういうキャラだった。
「やり直しを要求するー!!」
青空にむなしい
反応はない。
「ひどーい! アイだからアイシラって安直すぎるよー!」
天にむかって
死んだら終りの一発勝負。
家に帰ったら無職で追放。
キツイがやるしかなさそうだ、この最弱ヒロインプレイを。
かくして元引きこもりヒロイン、アイシラのゲームプレイが開始された。
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