第4話 お約束のひとんちデストロイヤー

「とにかくやれることは全部やらないと、マジで序盤に死ぬ!」


 アイシラは急いで村へむかった。

 フィールドに出てモンスターと戦う、などという普通の選択肢せんたくしはむしろあり得ない。

 ステータス最弱のアイシラにとって序盤の戦闘は一回一回が本当に命がけなのだ。


 とにかく今は装備と回復アイテムだ。

 タダで手に入る初期装備を使ってもザコ敵に一回勝てる程度だけど、それでも取らなければむ。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 モンゴル風組み立て家屋・ゲルの前で母が洗濯せんたく物をしていた。


「おかえりアイシラ」

「…………」

「アイシラ?」

「……あっ、た、ただいま」


 引きこもりニートの習性で、うっかり母親の言葉をスルーしかけてしまった。

 いかんいかん。

 とりあえずこの世界の中だけでも普通に生きる努力をしなくては。

 元の世界でも普通に生きる努力をしろって? それができるなら苦労はしない。


 家の中に入る。

 ドーム型の内部は意外なほど広い。

 だがたった一つだけの空間だ、個室などはない。

 一家全員が一つの部屋で共同生活をおこなう文化スタイル。

 子供部屋オバ……もとい大きな女の子であったアイシラにとって、地獄のような住宅環境だ。


「帰ったかアイシラ」

「あ、はい!」


 部族の長老であるおじいちゃんがいわゆる上座かみざ? 的な風格のある座席に座っている。

 ちょっとした王様みたいな威厳いげんあるオーラを出していた。


(うちのおじいちゃんとは全然イメージが違うなあ)


 何年も前に死んだ祖父のことを思い出しつつ、アイシラは家の中にある宝箱をあける。


《「ナイフ」と「きずぐすり」を手にいれた》


 ナイフをその場で装備。

 素手からパワーアップして、まずは一安心。

 

「よし、次にいこうっと」


 時間はまだ昼だ。今日のうちに村中のアイテムを回収してしまおう。

 帰ってきてまだ一分弱。

 またすぐ外へ飛びだそうとするアイシラとぶつかる感じで、ほぼ同じ年頃の男の子がゲルの中に入ってきた。


「あれっ姉さんまた外へ行くの?」

「えっ、あ、うん」


 アイシラはいきなり姉さんと呼ばれてビックリした。

 

(アイシラに弟なんていたっけ?

 いたような……いなかったような……?)


 実のところ記憶にない。

 ちゃんとアイシラルートもクリアしたことがあるのだが、思い出の彼方かなたに飛んで行ってしまった。

 どうして記憶にないかというと、この村、あと少ししたら魔物におそわれて消滅してしまうからだ。


 村は魔物に焼き払われて、生き残りはアイシラ一人だけ。

 それがアイシラルート序盤のストーリーなのだ。 


「じゃ、じゃあね」


 アイシラは軽く手を振りながら弟の横を通りすぎ、家の外へ出た。

 あまり仲良くならないほうがいいだろう。

 お別れがつらくなるから。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 それから日が暮れるまで、彼女は村中を荒らしまわった。

 どうせ消える村なんだから良いじゃん良いじゃん……と判断したうえでの暴挙ぼうきょだが、拍子ひょうしけしたことに誰もアイシラの暴挙をとがめなかった。



 ガッシャーン!



 ド派手な音をたててつぼが砕けちる。

 粉々になった破片の中にコインを発見。


《10ゴールドをてにいれた》


 脳内画面に文字が表示される。


 ガッシャーン! ガッシャーン! ガッシャーン!


 残りのツボもすべて破壊したが、あとは何もないようだ。

 よし、次の家も壊しにいこう。

 

 たった10ゴールドのために不法侵入をして他人の家財を壊しまくる。

 ハッキリ言って正気の人間とは思えないような行為だが、こうしないとなぜかアイテムが出てこないのだから仕方がない。

 それに一回家から出てしまえば不思議と元に戻ってしまう。

 どんだけリアルに見えても、やはりゲームなのだ。


 ガッシャーン! ガッシャーン!


 初めはビクビクしながら不法侵入をくり返していたアイシラだったが、すぐになれてドンドン他人の家を荒らしまわった。

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