第54話 1-13-1 ("いつか"が来るまで待とう) 

1-13-1 ("いつか"が来るまで待とう) 耳より近く感じたい


ーー日曜日、夜、音波の部屋


 音波は、スマホの画面を見て独り言を言う。


「この文章で可笑(おか)しくないかな?」


円井

「片山くん、具合はどうですか?

 このメッセージ読んで

 学校に来れるようになったら

 いつもの顔文字送って下さい」


「……、送信しちゃえっ!」

ピッ、


………


「まだ具合悪いのかな…」


 ベッドの上でスマホに変化があるのを期待する。

 だが、10分待っても変化はない。


「ハァ~っ…」

 太いため息を打つ。


(片山くんの、あの薬を異常に嫌がるの…何か理由があるんだろうな。

 それと、うわ言…。

 触るな…って言ってた)


(私、片山くんの気に障ることしたのかな?

 無理矢理お薬飲ませたから、嫌われたかもしれないな…)


強硬に拒絶する言葉

誰も受け付けない言葉


『 オ レ ニ サ ワ ル ナ 』


「俺に触(ふ)れるな、触(さわ)るな、離れろ

 いやだ、やめろ…て言ってたな。


 片山くん、何だか怯えてるように感じた。

 それと、苛立ち…、気になる!」

 音波は髪を両手でクシャクシャする。


 音波は、今までの片山の行動を振り返る。


(片山くん、女…苦手って言ってた。

 学校でも女子だけ避けてた…

 呼び出しのときも距離を保って…


 昨日、佐藤くんに聞きそびれちゃったけど、

 片山くんと佐藤くんが一緒に動くときは、ほぼ決まって佐藤くんが前を行く。


 そして、女子が集まってる時は、道を開けるようにしてた気がする。

 なんだか、女子が近付くのをガードしてるみたい…、考えすぎかな?


 …、でも手は繋いだことあるし、支えてくれたこともあったし、

 頭、撫でられたこともある…、

 …閉じ込められたあの日は、優しく抱き留めてくれた…)


 どんな過去があったのか…


「気になる…、でも聞かない! 話してくれるまで。

 元気になった姿を見れるほうが大事!」


(いつか話すって言ってくれたんだ、

 その"いつか"が来るまで待とう)


 音波が考えたり、ブツブツと独り言を言っていると、スマホに反応があった。


ピピッ

片山……入力中


(あ!)


片山……入力中

片山

「丸一日寝てた

 今 気づいた

 迷惑かけた

 だいぶ復活した

 音波のおかげ

 ありがとう」


(ああ…良かったぁ…片山くん)


 音波は、片山から届いた返信メッセージにホッと胸を撫でおろす。


 そして、音波は直ぐに文字を入力し、返信する。


円井

「良かった、

 本当によかった

 安心した

 (つ≧▽≦)つ

 ゆっくり休んでね

 おやすみなさい」


片山……入力中

片山

「オヤスミ」

「(・∀・)」



ーー翌月曜日、朝

 教室前で、音波は止まっている。

 その理由は…どんな顔をして片山と会えばいいのか、である。


(すっかり忘れてた…私、キスしたんだった///)


 一時的に意識が戻った片山に、薬を飲んでもらう為に、口移しで水を飲ませた一昨日の出来事を、既に教室にいる片山を見て思い出したのだ。


(片山くんは覚えてない筈、佐藤くんにも口止めしてるし、私がぎこちなかったら変だよね…)


 平常心、平常心、と音波は自身に言い聞かせ、教室に入る。

 席順が50音順で良かったと、このときばかりは思った。


「おはよう円井さん、昨日の島崎チカオのアニメ観た?」

「う、うん、観た観た」


…実は観ていない。

 片山とチャットをしていたからだ。


「主人公の声優さんの声、カッコいいよねー。あんな声で告白されたらいいなー」

「う、うんうん、そうだね?」


(どんな声だっけ?)

 音波は、何とかクラスメイトに話を合わせる。


 音波が話している様子を見て、片山はフッ…と笑った。


ーー昼休み


「音波、お昼食べよ」

「う、うんっ」

 梶とは、いつも一緒に食べているので、当然今日も誘いにくる。

 そして…、


「佐藤たちのとこで食べようよ」

 この流れも、いつものことである。

「うん…」


(だよね、そうなるよね…)


 お弁当を持って、佐藤と片山の居る席に行く。

 梶は佐藤の横の席に、そして音波は片山の横の席に座る。


(今日は前を向いて食べよう…)


「土曜は色々大変だったな」

 佐藤が…話の口火を切った。


「ん、迷惑かけた、

 梶、啓太、悪かった」


「いいよ、佐藤の過保護はもう分かってるからさ」

 梶が言う。


 佐藤が、音波を見ながら言う。

「でもビックリだよな、まさか円井があんな…」


「佐藤くんっ!///」

ガタッ!


 音波は勢いよく席を立つ。


 梶が訊く。

「どうしたの? 音波」


「あ?…ああそうだった」

(やべえ、つい喋るとこだった)


 佐藤は、片山をチラッと見て言う。


「えっと、そうだ!成斗の兄ちゃんに初めて間近で会ったんだよな」

 これでいい?と、佐藤は音波に目で合図を送る。


「う、うん、そう、初めて会った」

 音波はコクコクと何度も頷き、座る。


「えー、片山のお兄さん見れてないのアタシだけ?」

「3月にライブするから、梶も観に来れば?

 そうしたら会えるよ」

 片山が言う。


「いいの?」

「啓太も来るだろ?」

「当然行くけど、」

「じゃあ、チケット4枚俺が取るから」


(ん? 4枚? 私も数に入ってる?)

 音波は、不思議に思う。


「音波も来るだろ? 兄貴のライブ」

「え、でも…」

 片山の兄に言われた言葉が引っかかる、


『 友達のままでいてほしい 』


「俺を酷い目にあわせた張本人のライブ、観たくない?」

 眼鏡越しに見える片山の目は、音波にはちょっとだけ悪戯っぽく見えた。


 音波は決めた。

「…うん、行く。行きたい!」


「ん、分かった。早速連絡する」

 そう言い、片山はスマホを操作する。

 そして、何処かに電話をかける。


「…あ、修(おさむ)さん? 俺です。

 俺込みで4人分、《ウチ》に入れたから、兄さんに4枚渡しといてくれません?


 うん、うん、修さんの分で捌(さば)いたことにしていい。

 うん、”アレ”、また売るの?

 あー、そう、分かった。


 うん、連れて行く。

 うん、それじゃ宜しく、はい」


 通話が終わった。


 片山と佐藤が話す。

「チケット取ったから」

「成斗、修さん、何だって?」

「当日楽しみに待ってるって」

「マジかー」

「啓太、テンション高過ぎ」


 音波は、普段より自然な片山を見て嬉しくなった。


「ふふっ」

「何?」

 片山は、どうしたの? という顔で音波を見る。


「ううん、今日は片山くんがよく喋るなあって。

 話し方が、いつもと違って新鮮だなって思ったの」


 音波がニコニコと笑顔で話すのを見て、片山は下を向き、小声でボソリと言う。


「…そっちのほうが、新鮮だし」

「え? なあに?」

「あー、別に」


 片山がパンの袋をバリっと開ける。

 4人はお昼を食べ始めた。

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