第51話 1-12-2 「友達のままで…」

1-12-2 「友達のままで…」 耳より近く感じたい


ーー

「円井を送ってくれるなら俺、帰ります。

 梶をフォローしとかないと」

 佐藤は大智に言って、先に玄関を出ていった。


「それじゃあ送るよ」

 片山の兄、大智と一緒にマンションを出る。


 渡されたヘルメットを被り、バイクの後ろに跨(また)がる。

 エンジンをかけ、バイクは走り出す。


 信号待ちをしている間、大智は音波に話しかける。

「今回は "当たり"で良かったよ

 ハズレだったらどうなってたか」

「え?」


(当たり? ハズレ? 何のことだろう?)


「君、弟と付き合ってるのか?」

「ち、違います」

「だよな、違うよな…弟と手を握ってたから、まさかと思った」

「あ…」


「恋人じゃないなら、もうあまり近くならないでほしい」

「え?」


「今まで通り弟とは”友達のまま”でいてくれ」

「どういう意味ですか?」


 大智は思う。

(ただの興味本位で 成斗に近付かれたら迷惑だから、

 …弟に変な気持ちや期待を持たれるといけないから言ってる…)


「これからもクラスメイトとして学校で仲良くしてやってくれないか。

 …そのほうが、『”友達のまま”の方が弟も喜ぶと思う』から」

「…」



キキーッ

「ココが自宅?」

「はい」

「…そうか」

 大智は、ヘルメットを脱いだ音波を見る。


「ヘルメット、ありがとうございます。

 送ってくださりありがとうございました」



 大智は再びクギを刺すように言う。

「いえいえ。

 弟とは学校で仲良くしてやってくれな。

 それじゃあバイバイ」


 大智はバイクの向きを、今来た方向に戻し、帰って行った。



(片山くん、大丈夫かな…

 お兄さん、やっぱり兄弟だな、カッコ良かった。

 それに、誰かに似てる気がする。


 片山くんのお兄さん、何だか含みのあるようなこと言ってた。

 友達のままって…)


「あ、お兄さんの名前聞くの忘れてた」



ーー

ガチャ、

 音波を送り、戻ってきた大智は弟、成斗の部屋に入る。

 オデコのシートを剥がし、手を充てる。


(熱は下がったか…)


 ベッドの横のテーブルに目をやる。


 途中で買ったのか、家の近くのドラッグストアのビニール袋の中に、500mlのスポーツドリンクが3本と、オデコに貼る熱冷まし用のシートの箱が、テーブルの隅に飲ませた薬の空きとシートのフィルム。


 そして家のタオルがある。


(タオルで体を拭いたのか?)


 掛け布団をそっとめくり確認する。


(顔だけか)



 大智はベッドの横の床に座り、弟を見つめる。


(成斗には無理させた

 俺の方の都合で連日引っ張り出して、

 毎日何時間もドラム叩かせて…、


 帰りはいつも深夜で

 寝る時間…奪っちまった、


 アレまで出させてしまった…)


 大智は己をぶっ飛ばしたい気分だった。


「成斗、アレ出させちまってごめん」

「…う、」

「成斗?」


「……お、と…は」

「!…成斗、お前…」


(…オトハ、あの子のことだ)


「成斗、お前もしかしてあの子のことが…そうなのか?」


(さっき手を握ってた…

 あの子が、ではなく成斗のほうが握ってた…)


 大智は弟の変化を感じた。

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