第23話 1-6-1 コンビ解消?

1-6-1 コンビ解消? 耳より近く感じたい



ーー2学期初日 教室にて


「それじゃあ席替えするぞ。

 今回はあみだくじで決める。

 早い者勝ちで名前書いていけ」


 担任が言い終わると、生徒たちは一斉に教壇へ集まる。



「アタシ音波と離れたくないー」

「私も実花と離れたくないよ」


 二人も席を立ち、クジに名前を書きにいく。



「よーし、それじゃあ発表するぞー」


 担任が黒板に横6縦6の碁盤の目を書き、名前をどんどん書いていく。



 願いは叶わず、音波と梶は席が離れてしまった。


 梶の席は廊下側から数えて3列目の前から2番目に、音波の席は運動場側から2列目の最後尾になった。



「随分離れちゃったねー」


「だね、お昼は今までどおり一緒に食べようよ、音波」


「うん」



 佐藤は、廊下側端の前から5番目、その後ろの最後尾が片山の席になった。


 佐藤と片山の席が並んだのには少し驚いた。


 どちらかのくじ運が良いのだろうか?



 初日の終わり、梶が佐藤のところへ行き、羨ましそうに言う。


「いいなあ佐藤たち一緒で」


 すると、佐藤がフフンとした顔で言う。


「俺たち、日頃の行いがよいですから」


「え、ウソだ。ナイナイ!」


「無いのかよっ!」



 音波はクスクスと笑いながら二人に言う。


「実花と佐藤くんが二人で話してるの、ホント仲いいよね。

 息があってて漫才コンビみたい」



「だってよ、梶」


 梶は慌てて言う。


「コンビとか、それこそ無いっ!//」


 梶の否定に佐藤が、言う。


「え?ないの?」



「あ、アタシ用事があるんだったっ、先に帰るねー」


 梶は後ろのドアから急いで出ていく。


「あ、実花待って」



 音波と梶が教室を出ていった後、佐藤がボソッと言う。


「…無いのかよ、はは…参った。

 なあ成斗、俺って友達以上にはなれない位置なんかなあ…」


 右手で前髪をかき上げる。



 後ろの席で一部始終を傍観していた片山が言う。


「啓太はどうしたい、押す?諦める?」


「うーん、否定されちまったの、結構効いてるわ」


 片山は席を立ち、佐藤の肩をポンと叩いて教室を出ていった。



 教室に一人残った佐藤は、ハァーっと深いため息をついた。


「良い感じだと思ってたのは、俺だけだったのかな…」



 先に出た梶に下足置き場でやっと追いついた音波は梶に聞く。


「ねえ実花、どうしたの?」


 心配そうに見つめる音波。



「ねえ、音波…アタシと佐藤、いいコンビかなぁ?」


「え?うん。私はそう思うよ?」


「そっか…そっか///」


 音波に背を向けて、嬉しそうにポツリと言った梶の耳が赤くなった。



ーー

 二学期初日から数日経った頃から、佐藤は昼休みになるとすぐに教室を出るようになった。



 佐藤と話せなくなった梶は、気持ちが面白くない。



「ねえ片山、最近なんで佐藤休み時間に居ないの?」


「あー、田中と食堂」


 田中は軽音楽部でボーカル担当だと、以前話していたのを思い出す。



「ふーん、あれ?片山は一緒に食べないの?」


 片山と佐藤はいつも行動を共にしているので、片山だけでいるのが、梶はどうも解せないのである。



「俺、食堂で食うのあんま好きじゃないし、移動で寝る時間減るの嫌だから」


「なんで食堂で食べだしたの?

 アタシ、もしかして避けられてる?

 何か気に障ることしたのかな…」



 気が沈む梶を見て、深くため息をついた片山は、若干面倒くさそうに言う。



「啓太は飯食ったら、そのまま田中と学園祭の宣伝しに行ってるだけ。

 あいつは自分の考えで行動してる。

 俺が一緒じゃないのは、一緒でいる必要がないから」



 梶は、むぅっとし、面白くなさそうに音波のところに行く。



「ねえー、音波ぁ、佐藤が居ないとつまんないい」


 音波の前の席の、今は空いている椅子に座り、音波の机に肘をつく。



「佐藤くんも何かしら用事があるんだと思うよ。

 それに佐藤くん、クラス以外の人とも話してるし。人気あるし」


「クラス以外?それ女子?」


「うーん、私は佐藤くんが女子とも男子とも話してるの見てるよ」



ーー佐藤は人気があるーー



「音波、早く食べて廊下行こう」


 梶は、登校前にコンビニで買っていたパンの袋をバリッと開けた。



 昼を食べ終わり梶が廊下に出ると、2組の教室から佐藤が出てくるのが見えた。


 後ろから女子数人も一緒に出てきてそのまま廊下で話し始める。


 女子の一人が佐藤の腕を掴んで何か話している。


 佐藤は腕を掴まれたまま、他の女子と時に笑ったりしながら話す。


 ひとしきり話すと佐藤は女子達に手を振り、3組の方に歩いてきた。



 梶は佐藤の前に立つ。


「おお、梶。どうした?」


 いつもの佐藤の態度だが、梶としては面白く無い。



「随分仲良く話してたね」


「へ?仲良くも何も、共通の話で盛り上がってただけよ?」


 至って普通の佐藤に、何故かイラッとくる。



「人気者だもんね」


「そうそう、みんなが放さなくて困るんだよね」


「…」



 なんとなく不機嫌そうな梶に気づき、笑わせようとする。


「なんか機嫌わるいじゃん。

 なに、梶。もしかして俺と話せなくてさみしいとか?」


 佐藤が意地悪そうに言い、梶を見る。



(うん、寂しい…)とはこの場では言えない梶は、逆のことを言ってしまう。


「そんなことないっ

 別に佐藤じゃなくてもいいし」



 数秒の沈黙の後、佐藤はフゥっと息を吐き、


「はいはいそーですか。

 俺まだ用済んでないから行くわ」


 と言って、スッと梶の横を通り過ぎ、4組の教室に入っていった。



 梶は、寂しさと多少の嫉妬から発してしまった自分の言葉に後悔し、ギュッと手を握りしめ、下を向いた。



(なんでっ、佐藤のバカ…

 違う、アタシのほうがバカだ…)

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