第3話 1-1-2 「ー、大丈夫?」
1-1-2 「ー、大丈夫?」 耳より近く感じたい
ーー 新入生は、係の案内に従って第3講堂に入場してください。
繰り返します
新入生は…ーー
受付で、クラス毎に色分けされたコサージュを受け取り、ブレザーの胸ポケットに挿す。
音波が受け取ったのは、黄色のコサージュだ。
講堂の中に入るとパイプ椅子がクラス毎に間隔を空けて並んでいる。
入場した順に前から詰めて座っていくようだ。
音波は入口横の壁を背に、3組の色の札を探す。
黄色の札を見つけ、歩き出そうとしたその時、
ドン!
横を通り過ぎる男子生徒に押されてよろめく。
「わっ」
ガシッ
音波の体が斜めの体勢で止まる。
誰かの腕でお腹の辺りを支えられ、こけるのは回避された。
「ー、大丈夫?」
声をかけられ、腕に寄り掛かったままの音波の体は真っ直ぐに戻された。
「ご、ごめんなさい」
と言って顔を上げる音波。
その目が捉えたのは、
背は高く、肩にかかるかかからないかの長めの髪で黒縁の眼鏡をかけた男子だった。
頭は寝癖なのだろうか、後ろの方が所々跳ねている。
(あ…この人、カッコいい…好きなバンドのメンバーに似てるかも?)
一瞬目が合い、凝視していたバツの悪さから、音波が再び謝ろうと口を開く。
と同時に男子が話しかけてきた。
「ー、アンタも3組?」
「ひゃい?」
「こっち。後ろ、ついてくれば?」
そう言って歩き出す男子。
「あ、ありがとう」
連れて行ってくれるという行為に甘えることにして、音波は後をついて行く。
3組の札があるパイプ椅子までは、階段を降りていかなければならない。
そこまで距離は無いはずなのに、緊張しているせいなのか、とても長く感じる。
音波は前を行く男子の後ろを歩きながら、足元に目線を移動した。
ちょっと前より距離が近くなっているのに気付く。
(あ…歩幅合わせてくれてるんだ。
初対面なのにこんな気遣いが出来るなんて、優しい人なんだな…)
ようやくたどり着くと、男子が振り返り、指で空いてる椅子を指す。
どうやら座れという意味だろう。
音波が「ありがとう」とお礼を言うと、
男子は「うん」と小声で言い、3組最後尾左端、音波の真後ろの椅子に座った。
数分後、後ろで話し声が聞こえてきた。
「悪い、遅れた。で、回避出来た?」
「いや…出来なかった」
「は?マジで?それちょっと後で詳しくな」
「…ああ」
「で、それ続けるの?
いつかバレると思うけどなー」
「1日でも長く平穏に過ごしたいんだ」
「まあなー。お前がそれでいいなら良いけどな。無理だと思うけど」
「…」
音波は一体何の話なんだろう?と思ったが、詮索するのをやめた。
もし仲良くなれたら、その時に聞いてみようと思った。
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