「耳より近く感じたい1~3」~孤独の闇の中ボクは怯えて震えてた、キミに出逢ってからボクは変わり始めた~

有澄 奏

season1 ~孤独の闇の中ボクは怯えて震えてた、キミに出逢ってからボクは変わり始めた~

第1話 1-0-1 「お前、名前は…」初めての出会い

1-0-1 「お前、名前は…」初めての出会い 耳より近く感じたい




××年、夏


各地で様々なイベントやフェスタ、またバーゲン等が催され、街は賑わっている。


休日は普段よりも更に多くの人でごった返していた。




様々な店舗が入っている8階建てのビルで、楽器フェアが開催されていた。


一つのブースでデモンストレーションが行われている。




そこに、珍しいというわけでもないが、多分同じ小学生くらいか、女の子が展示されている機材を、目をキラキラさせながら見ていた。




「珍しいな、女の子一人で来てるなんて。」


声をかけたのは、女の子より少し背が高くて、短髪の男のコだ。


「そんなに熱心に何見てんの?」


女の子は、一人で来たかどうかには答えず、機材を指で指した。


「あのね、お家にあるのがいっぱい置いてあるの。コレとね、コレとね、コレもあるよ。」


女の子が指差したのは、エレキギターのエフェクターである。


ディストーションやオーバードライブ、ギター好きなら出来れば各種類持っておきたい願望がある。




1つ数千から数万円もする機器を、お年玉や小遣いを全部投入しても、この歳でそんなに集められるはずがない。


この子の親が長年集めたのだろう。




女の子に興味が湧いたので、何か話のネタは無いかと考える。


すると、女の子は両手の人差し指を空中で上下に振りながら言った。


「でもね、コレだけは無いんだ。


 場所とるから無理なんだって。」


男の子は分かった。


「ドラムか?お前ドラムが好きなのか?」


「うん。お父さんが言ってたの。


 リズム隊がしっかりしてると安定するって。


 ドラムやベースを信頼してるから、他のは安心して遊べるんだって。


 まとまっていられるんだって。


 でも家には無いからお父さんいつも機械使ってる」




ドラムか…。


「君もドラム好きなの?」


「いや、俺は、」


ギターを触り始めたばかりで、機材にも詳しい訳では無かった為、言葉を濁す。


「ねえ、ドラムやるなら、いつか見せてね。


 応援するから。」


(ドキッ!)


キラキラした瞳で真っ直ぐに見つめられ、男の子は見惚れた。


(ドラムか…!)




「おい、大きくなったらお互いどうやって見つけるんだよ。」


「そしたら、はいコレ!」


手渡されたのは、手作りのキーホルダー。


スネアドラムの上にスティックがクロスしている。


「色違い、家にあるからあげる。


 私が作ったから、きっと分かるよ。」


「あ、ありがとう」


女の子から手作りのものを貰った感動で、暫し呆然とする。


「私、疲れたから少し休むね」


そう言って女の子は歩いていった。




ブースでのデモンストレーションが終わり、集まっていた人が動き出す。




(しまった!名前聞いてない!)


男の子はさっきの子を追いかける。


座れるところ、近くだと…


目星をつけて走る。




「おい!おい!」


ハァハァハァッ、


「あれ、さっきの」


「お前、名前は…」


ズンッ、ドーーン!!


グラグラグラ…


突き上げる衝撃のあと、大きな揺れが来る。




ーー地震ーー


いたる所から悲鳴が聞こえる。


ガシャーン


何かが割れる


踏ん張っているのがやっとだ。


女の子は…


頭上の大型シャンデリアの鎖が切れ、アチコチにぶつかりながら落ちてくる…


「危ない!」




咄嗟に体が動く。


彼女を自分の下に、降ってくるものから守る。


女の子は恐怖で声も出ないのか。


丸まっている彼女に覆い被さり、


あらゆる痛みを背中で受ける。




ようやく揺れが収まった頃には、二人の姿は様々なもので埋もれていた。




「ー、大丈夫?」


「…うん」


ホッ、返事した。


「…そう、よかった」


極限状況下だからか、不思議と体の痛みは殆んど感じない。


「もう大丈夫、大丈夫だから…」


微かにすすり泣く声がする。


安心させるように何度も言い聞かせる。


「…大丈夫だから…泣かないで。」




遠くの方から声が近づいてくる。


「こっちに子供が埋もれてるぞ!」


(助かる…のか?)


大人の声に安心したのか、身体が限界なのか、男の子は意識を失った。




「ねえ、何か言って?


 暗いよ、狭いよ、怖いよ、一人にしないで、」


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