第四部

真犯人

 アルバムを確認した翌日。放課後、有村ありむらは急に“彼”に声をかけられた。

 

「――なんですか、話って」

「最近、学校はどうかなって。……少し相談にでものろうかと思って」

「それは、ここでしないといけない話でしょうか……?」

 

 有村はあたりを見回した。

 屋上――、ドラマやアニメとは違い、現実には生徒は殆ど立ち入ることができない場所。

 

「君みたいな子は、人目があると特に話せないと思ってね」

 

 その穏やかな口調と笑顔の裏に、何か不気味なものを有村は感じた。

 ゆっくりと自分に近づいていく途中で、有村はようやっと“彼”の手に皮の手袋がはめられていたことに気づいた。


 ◯

「先生〜、プリント回収しました〜」

「おう、じゃあそこ置いといて」

 “担任”に言われた通り、山辺やまのべは机の上にプリントの束を置いた。

「じゃあ、失礼しま――」

 そう言って職員から出ようとした時だった。


「あ、山辺」

「なんすか〜?」

 ちょっと、と“担任”は山辺に手招きした。

「さっきから鞄から変なものが見えるんだが……?なんか、細長い――、なんだそれ?」

 “担任”が鞄を指差し指摘したのは、トランシーバー型の盗聴器発見機だった。

 丁度先端の部分が鞄から突き出していた。

 

(しまった……!)


 他にも盗聴されている場所がないか、蓬莱ほうらいに言われて数日に渡り調べてたため、鞄にずっと入れっぱなしになっていたのだった。

 

「えっ?あっ、これ?これ……なんでしょうね〜。ハハハハハ。はい、すいません〜!ではでは〜」

「おいおいおい。何だその態度は。何もそんなに慌てることはないだろう。怪しいものじゃないか一応確認させてもらうぞ、いいな?」

 少しずつ扉の方に移動する山辺の肩を掴むと、有無を言わさず鞄をその腕から取った。

「あ~!」


 “担任”が生活指導も担当していることを山辺は初めて呪った。

 “担任”は例の事件のことがあってから、生徒が持ち込んだものに人一倍注意を払っているいるのだ。

 

 鞄から例のものを抜き出すと聞いた。

「これは……?」

 “担任”は笑顔で聞いてくる。

「……」

「……学校に関係ないものだよな?」

 声のトーンが急に低くなった。


(やばい……)


「えっと……、そうかも……です」

 山辺はそのまま生徒指導室に連れて行かれた。


 ◯

「なんでこんなものを学校に持ってきたんだ?」

 盗聴器発見機を目の前にして、“担任”は険しい顔つきで聞いてきた。


「それは、その……」


(正直に言ったところで信じんのか……?ただでさえ、この人面倒くさいのに……)

 

 返答に困っていると、ズボンのポケットに入れていたスマホが震えているのに気がついた。

「あっ、電話だ!出ますね!いや、出ないと!」

 すぐさまスマホを取り出して、部屋の扉近くまで移動する。

「ちょっと、コラ!話を逸らさない!」

 

 取り出したスマホの画面を見て山辺は違和感を感じた。有村からの発信だが、山辺個人に向けたものではなかった。奈緒なおを含めた同好会のグループ通話になっていた。

 

「通話参加」を押して電話に出るが、掛けているのが外なのか、風の音で聞こえにくい。山辺はスピーカーに切り替えて音量を上げた。


「――僕をこの学校から追い出そうとしたのは、僕の叔父を突き落としたのは、あなたなんですか――


「「え!?」」

 狭い部屋に響く有村の声に、山辺と尾崎おざきは同時に声を上げた。


(……まずいっす!先輩‼︎)

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る