情報
「先輩、俺とマイニクになりませんか?」
「「マイニク?」」
聞き慣れない言葉に
「そう、マイニクっす」
「
あずさがドヤ顔を決めてる山辺の横から言った。
「あっ、お二人ともnixi知らないんすか?」
「「知らない……」」
「もしかして、
「流石にそれは知ってる」
SNSを全く知らないように思われて、奈緒は少しムッとした。
「nixiってのはTwittoの前身というか、Twittoが普及される前の国内最大のSNSだよ」
あずさが説明した。
「じゃあ、前は結構な人が使ってたんだ」
「そう。でも今はTwittoを一般的になっちゃってるけどね」
「nixiはいろんなコミュニティがあって、参加すれば沢山の人とやりとりできるの」
「コミュニティ?」
有村が聞き返した。
「あ、俺の見てもらえればいいっす」
山辺のページを見させてもらうと、「懐かしい駄菓子を語る会」「怪談話好きな人〜(^○^)」「SF大好き交流会」など、五十を超えるコミュニティに参加してした。
「こんなにいっぱい……」
「ついでにこれも」
そうして山辺が見せたのは「
「これって――」
有村が言いかけた。
「そうっす。叔父さんの通っていた高校っす。このコミュニティに参加して、当時のことを知っている人がいそうか探ってました」
「それで……、いたの?」
「一人だけ、該当しそうな人が」
「その人とやりとりはできる?」
奈緒はすかさず聞いた。
「はぁ、それが……」
山辺は表情を曇らせた。
「マイニクが必要なんです」
「マイニクって?」
奈緒が聞き返した。
「このnixi上での友達のことっす。マイニクになれば個人的なメッセージ交換も可能になるんす」
「じゃあ、その人とはマイニクじゃないってこと?」
有村も聞いてきた。
「今、承認待ちをしているところなんす。でも中々落とせなくて……」
「――だから有村先輩、俺とマイニクになって、ついでにこの人を落としてください!」
★
数日後、有村と山辺はグラッドに来ていた。有村は例の人が叔父と知り合いの可能性も考え、
Twittoに裏アカウントがあるように、nixiも当然複数のアカウントが持てるのではと考えていたが、一人一アカウントという仕組みだった。そのため、もう一人動いてくれる別の人間が必要だったようだ。
奈緒もマイニクを立候補したが、女性陣は何かあると危ないから、という理由で山辺から断られた。彼なりの女性の守り方なのだろう。
例の人は「プラナリア」というニックネームで登録していた。
プラナリアのプロフィールはマイニクじゃない人でも閲覧できるように設定されていた。山辺同様に多数ある参加コミュニティーのうち、有村が興味のあったコミュニティーが一つ存在した。
「君が……、レッサーパンダ大好き
メガネをかけた小柄な中年の男性は、不安そうに窓側の席に座る有村に聞いてきた。
「はい……」
有村は気恥ずかしそうに返事をした。
(ドスレートな名前にしなきゃよかったな……)
自分の中でレッサーパンダは猫よりも上位に位置する。
あのフワフワした尻尾と愛くるしい顔には、極上の癒しを感じてしまうのだ。
「レッサーパンダが好き!」のコミュニティを見て、有村はすかさず参加した。
そして自分のニックネームも、「プラナリア」が目に止まりやすいだろうとあえて分かりやすいものにしたが、奈緒からは「有村君ふざけてるの?」と不評だった。
ちなみに、「プラナリア」とは、切っても切っても体を再生する能力のある生物のことだ。
このニックネームからは男性か女性か分からなかった。ただ今彼を目の前にして言えるのは、体のどこかに拳をお見舞いしたら、再生せずに気絶しそうな感じの人ということだった。
「今日はお会いしてくれてありがとうございます」
有村は深々と頭を下げた。
「いいよ、いいよ。そんなにかしこまんなくても」
プラナリアは苦笑いしながら有村の向かいに腰掛けた。
「――で、お隣さんは……」
彼はチラッと有村の隣を見た。
「ニックネーム、のべっちいです☆」
山辺はウインクしながら彼に答えた。
「僕の……、マイニクです」
「友達?二人とも結構若いんだね〜。……あぁ、これえっと、変な意味じゃなくて……」
「大丈夫です。そういう理由でお会いした訳じゃないのはわかってます」
「そうだった、芳野高校の男子生徒のことだったね」
無事に有村とプラナリアがマイニクとなり、メッセージを取り合うようになったところで、叔父の事件のことについて触れた。プラナリアは最初は不審がっていたが、「自分の学校の怪談を探っていたらこの事故に辿り着いたこと」「興味があって個人的に調べていること」を伝えたら、会ってくれることになった。
「nixiの方では言えなかったけれど――」
プラナリアはそう前置きして事故のことを話し始めた。
「実は事故のあったあの日、僕いつもより少し学校に早くに来てだんだ……」
「え……」
「部活の朝練があってね、使う道具を出すから少し早めに着いてたんだよね」
「非常階段は学校の隅で、殆どの生徒は使わない。僕も道具を取りに通り過ぎたくらいで。でも――」
そこでプラナリアは口をつぐんだ。
「でも、なんですか?」
「ちょうどその時、非常階段で生徒を見かけたんだよね。あれ、珍しいなとは思ったけど」
「その人、今にも飛び降りそうな感じでした……?」
『自殺かもしれない』
思い詰めて亡くなったという仮説を捨て切れなかった有村は聞いた。
「いや、そういう感じは……。それに一人じゃなかった気がするんだよね」
「え、それって誰か他にいたってことっすか?」
「それが……、そこまでははっきりと覚えてなくて。だからこのことは学校にも警察にも言えなかったんだ……」
「そう、ですか……」
「でも、あれが例の事故の生徒だとしたら、最後に見たのは自分だったかもしれないってずっと思ってた」
プラナリアはそう言って目を伏せた。
最期に見たのが自分かもしれない――。プラナリアの言葉には、たとえ事故が自分のせいでないとはいえ、何かできなかったのか、助けられなかったのか――、そんな後悔も垣間見えた。
「ちなみに、プラナリアさんはその事故の生徒のことは知ってたんですか?」
「いや?同じ学年だったけど、関わりなかったな。名前も聞いたことなかったし。後から聞いた話だと、大人しいわけじゃないけど、友達は殆どいなかったらしいね」
父が日記で書いていた内容と同じだった。親しい友人は日記に書いてあった
「大した話じゃなくて悪いね」
プラナリアは申し訳なさそうに言った。
「いえ……」
「――で、卒業アルバムだっけ?」
プラナリアはそう言うと、リュックから古びたアルバムを取り出した。
nixiでマイニクになった真の目的はこれだった。
当時の学校関係者や生徒の写真が上手く手に入れば、蓬莱家の顔認証の技術で犯人を割り出せるかもしれない。
個人情報といえば、個人情報だ。プラナリアはレッサーパンダのレアな写真を交換するという条件で、今回応じてくれたのだ。
山辺には、「よくそんなのでOKしてくれましたね」とひどく驚かれた。
「そういや、この事故の調査ってそもそも君らのところの怪談から始まったんでしょ?」
「え、えぇ、まぁ……」
「そうっす!」
有村がしどろもどろに返事をすると被せるように山辺が言った。
「その幽霊が出るってことは――、君らこの先にある
「……はい」
「そうか……。実は、僕の兄貴がそこに勤めていてね――」
「えっ、そうなんすか!?」
「今年に入ってからなんか学校が騒がしくなったみたいで、大変だったとは聞いていたけど、君らは大丈夫だったの?」
「ま、まぁ……?」
有村はしどろもどろに答えた。
まさにその一連の被害者であることは間違いないのだが。
「あぁ、そういえば……」
帰り際、思い出したようにプラナリアは言った。
「なんですか?」
「最近じゃ、こういう情報をお金で買う人もいるらしいから」
「こういうって?」
「学校に通う生徒の情報とかね」
「え、それは――」
「……ネットの世界は君たちが思っているよりも怖いって話。今日は僕だったからいいけどね。――歳上からの忠告だよ。気をつけて」
「返すとき、またメッセージを送って」
そう言ってプラナリアは店から去っていった。
「学校関係の情報買う人って、どんな人なんすかね……」
「さぁ……?」
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