告白

「――あの二人を突き落としたのは僕です」


「は……?突き落としたってまさか――」

「転落事件の犯人は、僕なんです……」


「……!」

 衝撃の事実に奈緒なおたちは言葉を失った。


「で、でも、仁科にしな君も被害者だったんだよね……?」

「あれは――、自分だとバレないように嘘を……」


 突き落とした生徒は男子生徒だった――。

 彼の情報は確かに正しかった、なぜならその男子生徒とはのことだったからだ。


「なんで、そこまでして……」

 そう言うのがやっとだった。

 ずっと自分たちを悩ませてきた人物が目の前にいる。

 有村ありむらを苦しめていた人物が—―。


「これが――」

 そう言うと、仁科は制服のポケットから一枚の紙を取り出した。


『一年のときにしたことを知っている。バラされたくなかったら、生徒を三人階段から突き落とせ』


 以前、有村を倉庫に誘き出したのと同じく、文章はWordで書かれていた。


「靴箱の中に入ってた。ついでに白い仮面も……」


「……あなた一年のとき、何をしたの?」

 蓬莱ほうらいが静かに聞いた。

 仁科は黙ったままだ。

「言えよ。お前のせいで生徒が怪我したんだ。はっきり言って犯罪だぞ」

 あずさは仁科を睨みつけた。

「去年は、あの頃は、友達もできなくて、勉強も思ったより成績が上がらなくて……、それで、それでむしゃくしゃして――」


 “コンビニで万引きをした”


 泣きながら震えた声で仁科は言った。


「誰にも見られてないと思ってた……」


「それだけ……?」

 奈緒は聞き返した。

「え……」

「ねぇ、それだけ?」

 気づくと、奈緒は仁科の胸ぐらを掴んでいた。

「ちょっと、奈緒――」

 あずさが止めに入ったが、その声は耳に入らなかった。


「それだけのことで、遠藤えんどう君も、木之下きのしたさんも突き落としたの?それだけで有村君を追い詰めたの?有村君を犯人に仕立て上げて――」

「ご、ごめんなさ――」

「ねぇ、どうしてそこまでするの?どうしてそこまでしないといけないの?――有村君があんたに何したって言うのよ!」


 ふと、あの動画が頭をよぎる。最初から関わっていたなら彼は――。

 

「あの動画を流して、皆に広めたのも――」

「ち、ちが……。く、るし……」

「奈緒!」

 あずさに無理やり引き剥がされて我に帰る。

 胸ぐらを掴むどころか、気づいたら仁科の首を絞めていた。

「あ……」

 

「とりあえず、すぐに先生に――」

 蓬莱が職員室に向かおうとすると、

「……あの!そのことなんだけど――」

 輪島わじまが慌てて言った。

「少し待ってからでもいいか……?」

「なんでよ」

 奈緒の怒りはおさまらない。 


「……こいつを脅した犯人を突き止めたい」

 輪島は仁科を見た。

 仁科はずっと下を向いたままだ。


「そんなの後からでもいいじゃん」

 あずさも奈緒に賛同した。

「……うん、後からでもいいとは思う。……だけど、先に犯人を突き止めないと、この先もずっとうやむやになりそうな気がするんだ。そんで次も何か起こるかもしれない、そんな気がして……」


 転落事件から既に数ヶ月が経過している。

 有村の動画がなければ、生徒もきっとこのことを思い返さずに日々を過ごしていたはず。そしてきっと事件があったことは自然と忘れ去られたかもしれない。

 しかしこうして今、有村の動画が流出し、盗聴もされていたことが発覚した。犯人がまだ何か企んでいる可能性は高い。

 輪島の言うことは確かに一理ある。


「頼む、この通りだ」

 輪島は奈緒たちに向かって土下座をした。

 仁科も隣で土下座した。

 廊下を通り過ぎる生徒は数少ないが、殆どがチラチラとこちらを見て通り過ぎる。


「何もそこまで……」

 蓬莱も呆れて言った。

「待ったところで、あなた達何をしてくれるの?仁科君に至っては犯人とまだ繋がりがあるんでしょ?」

「“生徒を突き落とせ”、“有村 由紀雄ゆきおの鞄に仮面を入れろ”っていう命令以外は、何も……」

「あの動画は?」

「こいつのスマホのデータを見た。他に何か隠してないか聞いたけど、そんなものはそもそも撮ってないって」

「嘘ついてるかもしれないじゃん……」

 仁科を許せない奈緒は輪島を責めた。

「こいつは嘘ついてないよ。一年と少しでも、一緒に部活で過ごしたやつだ。今、話したこと以外はしていない。そう確信する」


「あのぅ……」

 気まずい空気の中、それまで口を開かなかった山辺やまのべがおずおずと手を挙げた。彼以外の全員が視線を向ける。


「「「「何?」」」」


「水を差すようで悪いんですけど――、そもそも誰っすか、この人」

 山辺は輪島を指差した。

「あ、この人は、私のクラスメイトの輪島君」

「あぁ、なんだ。桐本きりもと先輩のクラスメイトのかたでしたか〜」

「……そういや名前を言ってなかった、わりぃ。――ってか、ここの部屋って使えるんだろ?どうせならこの中で話そうぜ」

「ちょ、ちょちょ、ちょっと待った――!」

 部室のドアを開けようとする輪島をあずさが止めた。

「え、何?なんで入っちゃダメなの?」

「えーと、諸事情が―……」


 盗聴器は発見したが、まだ取り出していない。――つまり、部室の中での会話はまだ聞かれている状態だった。


「じゃあ、どこだったら話ができんの?」

「校外、かなぁ……?」

 校内で思いつく場所はなかった。

 

「あ、待って。近くにあんじゃん」

 思いついたようにあずさが言った。

「どこ?」

「駅近のカラオケ屋」

「「あぁ〜」」

 輪島と奈緒は同時に頷いた。

 駅を出た直ぐの通りにこの間新しくカラオケ屋がオープンしたのだ。

 

「個室っていうか防音だし、しかもオープン記念で今確か安いよ」

「……行くか」

「行こう」

「僕も行きます……」

「行きましょ!」

「えっ、また僕、駅に戻るんすか!?」

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