協力者

「ダメだ……。出ない」


 人気のない渡り廊下。奈緒なおはあずさにも協力して有村ありむらと連絡をとることにした。

 けれど、LUINEから何度電話をかけても有村は出なかった。

 もちろんメッセージを送っても反応はない。


「グループの方も既読なんねー」

 グループLUINEを開いてあずさは舌打ちをした。


(動画を撮った人は一体誰なんだろう……)

 

 由香里ゆかりたちから話を聞いて、輪島わじまのLUINEに送られた動画を見た。

 動画の内容はあの日、奈緒が見た光景だった。つまりそれは、自分以外で有村の秘密を知った人物が他にいるということになる。


『嘘つき……』


 有村はきっと自分のことを疑っている。

 みんなに知られてしまったのは仮面のことだけじゃなく、歳上であることやナイフのこともだった。

 

(“秘密にして”と言われたことがこんな形で知られたんじゃ疑われて当然だよね……)


『あ〜、もう!桐本きりもとさんといるとさ、つい自分のこと言っちゃうから怖いんだよ……』

『……秘密にしといてよ』

『別にそこまでしなくてもいいよ』


 あの部室で少しずつ彼の「初めて」を知った。

 だけどもう、あの時のような関係には戻れない。

 あの時のように話すことはこの先、きっとない。


「奈緒?……泣いてる?」

「泣いて、ないよ……」

「泣いてんじゃん」

 そう言うとあずさは啜り泣く奈緒の頭を優しく撫でた。

 

「今日はさ、部室寄らないでグラッド行こ?」

「……うん」


(あずさがいてくれてよかった……)

 

 ☆

「——で、どゆこと、どゆこと??」

 グラッドに着いた蓬莱ほうらいは、泣き顔の奈緒を前に状況が掴めず戸惑った。


「二世が仮面を捨ててる動画がなぜが拡散されて、クラス――、というより多分今は、学校中に転落事件の犯人って疑われてるみたいです」

「そんな……!ってか誰がそんなことをしたのよ!」

 話を聞いてプリプリと怒りながら蓬莱は言った。

 

「あと——」


 奈緒は蓬莱に、部室で二人だけの時にしか話していないことも、なぜが知られていたことを伝えた。


「秘密にしてって言われてたのに、これじゃあまるで、誰かが私たちの会話を聞いていたみたい……」


「「誰がが会話を聞いてたみたい……?」」

 奈緒の一言を聞いて蓬莱とあずさは同時に声を上げた。

 

「まさか——」

 蓬莱はチラッとあずさを見た。

 それに応えるようにあずさもコクっと頷いた。

「その、“まさか”だと思います」

「いや~、でもねぇ、学校よ?」

「まぁ……その、ご時世?ですしね。簡単に手に入るんじゃないですか?」


「え、ちょっと。さっきから二人して何なんですか?」


 丁度そのとき、山辺やまのべが店内に入って来た。


「ちょっとも〜、なんで今日部室じゃないんすか~」

 走って来たのか、やや小太りの体を上下にさせながらテーブルに向かってきた。


「山辺君、ちょっと駅前のドソキ・ホーテに行ってきて」

「はぁ!?俺、今ここに来たとこっすよ!?」

「悪いけど、今すぐ」

「蓬莱先輩には田中たなかさんいるじゃないっすか~」


(田中さん……?)


「田中は車検で今いないの」

「え〜、マジすか〜」

「このお釣り、お小遣いにしてもいいわよ」


 そう言うと、蓬莱は財布からピン札の諭吉を取り出した。

「行かせて頂きます!」

 山辺はサッと諭吉を手に取ると、足早に店を出て行った。


 山辺を見送ったあとで蓬莱は言った。

「さて、と……。私たちは学校に戻りましょうか」

「へ?」


 ☆

「例のもの買ってきました〜」

 ドソキの袋を下げて山辺がやって来た。


「じゃあ、早速部室に向かうわよ」

「え、はい?」


(なんで部室……?)


 ドアをかける前に蓬莱は言った。

「部室に入ったら、声を出さないように気をつけて」

「?」


 そして山辺から袋をもらうと、中に入っていた箱を開けた。箱から取り出した「それ」はトランシーバーのようなものだった。


(え、もしかして――)


 蓬莱が鍵を開けて部室に入る。そして「それ」を壁に向けてゆっくりと歩いていく。テーブル下のコンセントで「それ」のライトが赤く光った。


「やっぱり――」


「――盗ちょっ」

「「しー!」」

 奈緒が思わず声を上げると、蓬莱とあずさが口を押さえた。

 慌てて部室の外に出る。


「な、なんで、部室ここに?」

「さぁ……?」

「でも明らかにこの同好会を狙ってるわね……」


(あの時のあの会話、全部聞かれていたのか……)


『秘密ね』

『分かった、秘密にしとく』


 もう、あの時点で秘密は秘密ではなかったのだ。


(一体いつから聞かれていたの……!?)


「あ、いたいた!桐本さんー!」

 戸惑っていると背後から急に大きな声がした。

「誰、だれ、だれ?」

 蓬莱がキョロキョロと辺りを見回した。

 声の方を見ると、輪島と――。


仁科にしな君……?」

 輪島に無理やり連れて来られた仁科の姿があった。


「……ほら、言えよ」

 輪島は仁科の背中をドンっと押した。

 押された仁科は、奈緒たちを見ると怯えた顔をした。そして膝をついて頭を下げた。

「え、ちょ、ちょっと。仁科君、どうし――」

「……僕です」

 奈緒の言葉を遮るように仁科は言った。

「は?」


「あの二人を階段から突き落としたのは僕です――」

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